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2014/4/5 東京・春・音楽祭(ワーグナーシリーズ)

2014年4月5日  東京・春・音楽祭 ワーグナーシリーズ    東京文化会館
ワーグナー  ニーベルングの指環より序夜「ラインの黄金」(コンサート形式上演)
指揮  マレク・ヤノフスキ
管弦楽  NHK交響楽団
エギルス・シリンス(ヴォータン)、ボアス・ダニエル(ドンナー)、マリウス・ヴラド(フロー)、アーノルド・ベズイエン(ローゲ)、トマシュ・コニェチュニー(アルベリッヒ)、ヴォルフガング・アプリンガー・シュペルハッケ(ミーメ)、フランク・ファン・ホーヴ(ファーゾルト)、シム・インスン(ファフナー)、クラウディア・マーンケ(フリッカ)、藤谷佳奈枝(フライア)、エリーザベト・クールマン(エルダ)   他
 
 
 東京・春・音楽祭は今回で10周年のアニバーサリーを迎えたそうだ。プログラムも多彩で魅力的であり、ようやくフェスティバルという名に相応しくなって、なおかつ定着してきたのはとても喜ばしいことである。
 
 音楽祭のハイライトとも言えるのが、このワーグナーシリーズ。
 前音楽監督だった小澤征爾とのつながりのおかげなのか、日本車メーカーからのスポンサードに対する感謝の意味合いからなのか、いずれにしてもウィーン国立歌劇場からの協力サポートを頂戴しているのは間違いない。総合プログラムには国立歌劇場前総裁のI・ホーレンダー氏のメッセージも寄せられている。世界に冠たる歌劇場のバックアップがあるからこそ実現した豪華キャストであることは間違いなかろう。
 
そして今年は更なるサプライズが。
なんとコンマスはライナー・キュッヒル!! わ~お。
事前情報を得ていなかったので、彼が登場した時は心底驚いた。会場からも、コンマス氏の入場にパラパラと拍手が起こった。
 
 極めつけは指揮者マレク・ヤノフスキ。彼の招聘の実現とその意義はとてつもなく大きい。
 過去に2度のリング全曲録音という快挙を成し遂げた、いわばスペシャリスト。これ以上ない強力な指揮者がこれから4年にわたって全曲シリーズの指揮を担ってくれるのだから、こんなに素晴らしいことはない。
 
 個人的に、彼には深い思い入れがある。私の初「ラインゴールド」体験がヤノフスキだったのだ。1991年11月、バイエルン州立歌劇場。本場のワーグナー上演に圧倒されたというのもあるが、ヤノフスキの音楽は腰を抜かすほどのぶっ飛び名演だった。そういう意味でも、今回の公演は楽しみだったのである。
 
そのヤノフスキの音楽は、前回ミュンヘンの記憶どおり、想像したとおりだった。
「大胆剛毅、それでいて繊細緻密」これがヤノフスキのワーグナーだ。
普段オケピットの奥から聴こえてくるものがコンサート形式上演により舞台上から聞こえたせいかもしれないが、各パートの織り成す旋律が実にくっきりとよく聞こえる。これはやはり、ワーグナー・モチーフに基づくフレーズのこだわりと、妥協を排した徹底的なバランス仕上げの成果によるものと言っていいだろう。
 特に弦楽器が統制されていて弛緩することがなく、響きが重厚。明らかに普段のN響の演奏とは一線を画している。ひょっとしてキュッヒル効果か?ただ、弦に比べると管楽器の音色がやや薄っぺらかったのが少し残念であったが。
 
 
 歌手も全体的にとても素晴らしかった。
 強い印象を残したのは、アルベリッヒのコニェチュニーとローゲのベズイェン、それから客席2階R席から歌ったエルダのクールマン。
 特にコニェチュニーには驚いた。というのは、昨年10月にウィーンで彼を聴いたのだが、申し訳ないが「ショボい」という感じだったのだ。
 いったいどういうことだろう。きっとウィーンの時は調子が良くなかったに違いない。プッチーニだったので、イタリア物との相性が良くなかったということも考えられる。いずれにしても、今回の圧倒的存在感は名誉挽回たるに十分であった。
 実は、私は個人的に続きがある。彼のヴォータンを聴く予定があるのだ。期待を高めようと思う。
 
 ヴォータンのシリンズとフリッカのマーンケは、もちろん申し分ないのだが、ややマジメ過ぎたか。
 まあコンサート形式上演ということで、まっすぐに歌っていたのだろう。
 マーンケは現行バイロイトリングのフリッカ。彼女は演技と一緒に役に成りきることで真価を発揮するタイプだと思う。
 
 それにしても、この曲の冒頭、万物の生成たる変ホ音が鳴った時の「始まり」の期待に満ちた高揚感!ひとつの音はやがてうねりだし、波となって、聴衆をライン川の奥底にいざなう。なんというオーケストレーション
 それから最後のヴァルハラ城入場の際の壮麗な音楽。初心者の頃は、神々の神殿らしくかっこ良くて、誇らしげで、華やかな音楽だと思っていた。
 だが、リング全曲を何度も聴いているうちに、やがて分かるようになる。これは没落前の神々一族の一時の栄華を表しているのだと。すると華やかな金管のファンファーレがなんと空虚に聞こえることか。
 壮大なドラマは幕を開けた。あと3年3回、しっかりと襟を正して臨みたい。