2014年4月8日 新国立劇場
指揮 ギュンター・ノイホルト
演出 アンドレアス・クリーゲンブルク
2009年11月に新演出上演されたプロダクションの再演。名門バイエルン州立歌劇場との共同作品だけあって、気鋭の演出家による深い読みと洞察で時代や社会を鋭くえぐった演出となっており、非常に考えさせられる舞台だ。
ノイホルト指揮による東京フィルは、ベルクの音楽をしっかりと体現していた。ものすごく難しい曲だと思うのだが、演奏面でヒヤヒヤする場面はほとんどなく、安心して聴けたのは良かった。
また、3幕15場もある各シーンが、停滞せずバラバラにならず、スムーズに流れていたのも特色。おそらくノイホルトは休憩なしの通し上演であることに着目し、全曲を通して一つの大きな流れを構築するような音楽づくりを目指したのではないかと推測する。
一方で、悲惨さ、まるで首を締められるかのような息苦しさ、グロテスクさといった、このオペラに潜む強烈な異常さは、少なくとも演奏面において影を潜めている。通常、ヴォツェックが徐々に精神破綻を来たし、それに伴って狂気が増幅し、聴き手にこれでもかと不安感を催させるのだが、ノイホルトと東京フィルにはそれがない。ある意味、非常にあっさりとしているのである。
これは意図されたものなのだろうか。それとも、そこまでの演奏表現に到達し得なかった技術的限界なのだろうか。そこらへんは不明である。
新国立の出演を通じてずっと彼女の歌を聴き続けているが、着実に階段を上り、現在最も充実しているのではないかという気がする。
だというのに、来シーズンの出演が見当たらないのはいったいどういうことだろう。残念でならない。
タイトルロールを歌ったニグルは、線はやや細かったが、「狂っているのは自分ではなく、周囲」という社会と運命の犠牲者の感じがよく出ていた。演出の意図に合っていたと思う。
そう言えば、昨年12月にアムステルダムの「賭博者」に出演していたことを思い出した。