クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

指環の思い出3

 社会人二年目。自分の所属に新入社員が入ってきて、それまでぺーぺーの新人だった私にかわいい後輩が出来た。
 驚いたことに、その後輩君はクラシック音楽ファンだった。しかも半端じゃない。大学の卒業旅行はヨーロッパに行き、ウィーンではムジークフェラインでクライバー指揮のウィーンフィルを聴いたとさ。凄すぎ。すぐに意気投合したのは言うまでもない。

 ある日のことだった。
 その彼が「さて、これは何でしょう?」とテープの音楽を私に聴かせた。
 静かに始まり、徐々に膨らみを増していく音楽。聴いたことがない。
「分からない。知らない。何?」と答えた私。後輩君、目を丸くして聞き返す。「え?知らないんですか?本当ですか?ウソでしょ?」呆れたような顔だった。
 ちょっとプライドを傷つけられて気分が悪かった(笑)が、その音楽こそ序夜「ラインの黄金」の冒頭部だったのである。

 彼が聴かせてくれたのは、1988年バイロイト音楽祭のFMライブ中継をエアーチェックした物。バレンボイムとH・クプファーによる新演出だった。聴き所を次から次へと聴かせてもらった後、最後に神々の黄昏のラストシーン、ブリュンヒルデの自己犠牲を一緒に聴いた。

 素晴らしかった。心底感動した。ワーグナーに痺れた。

 ビックリしたのは、ライブ中継にしっかり収まっていた演奏終了直後の観客の強烈、壮絶なブーイングだった。演奏は素晴らしいと思ったのになぜ??いったい何が劇場で起こったのか?? 
 後輩君がうんちくを垂れてくれる。
 「これはですねえ。演奏ではなく、演出に対するブーイングです。バイロイトというところは、このように観客と劇場側とが真っ向から対立することがあるみたいですよ。」

この日に聴いた音楽、そして彼の話。「知らないんですか?」と言われてしゃくに障ったこと(笑)。
これらこそが私が指環に関心を向けることになった記念すべききっかけである。

 指環を聴くべき時がついにやってきた。

 さっそく歴史的名盤と言われるショルティ指揮ウィーンフィルの指輪全曲CDを購入。毎日のようにむさぼり聴いた。CDの解説文を読み、文献を漁り、自分なりにライトモチーフを研究した。
 ついに、ついに私はワーグナーの媚薬を飲み干し、禁断の扉を開けてしまったのである。

 それからしばらくして、サヴァリッシュ率いるバイエルン州立歌劇場が新演出リングを制作。NHKがこれをハイビジョン録画し、レーザーディスクで販売された。
 当時8万円もしたこの高価品を、とにもかくも清水から飛び降りて購入。わざわざ有給休暇を取得して自宅に籠もり、鑑賞した。

指環を見たいという欲求はエスカレート。
レヴァイン&メトロポリタンオペラのリングLD購入。五万八千円也。
ブーレーズバイロイト祝祭のリングLD購入。七万円也。
立て続けの購入だった。

 やれやれ、泥沼化していく様子がよくわかりますな(笑)。
しょうがない。禁断の扉を開けちゃったんだから。