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2016/11/18 ザルツ・イースター音楽祭 ラインの黄金

2016年11月18日  ザルツブルクイースター音楽祭 ㏌ JAPAN   サントリーホール
演出  ドニ・クリエフ
管弦楽  シュターツカペレ・ドレスデン
ミヒャエル・フォレ(ヴォータン)、アレハンドロ・マルコ・ブールメスター(ドンナー)、クルト・シュトライト(ローゲ)、アルベルト・ドーメン(アルベリヒ)、ゲルハルト・ジーゲル(ミーメ)、ステファン・ミリング(ファーゾルト)、アイン・アンガー(ファフナー)、藤村実穂子(フリッカ)   他
 
 
これは名演ではない。
超弩級、桁外れの」名演である。
衝撃度は破格。つい数日前に聴いたウィーン国立歌劇場ワルキューレの「良かったなあ」などという感想は軽く蹴散らされ、霧散した。満足度において、今年の夏に聴いたバイロイト音楽祭公演をも上回る。
 
日本で今回に匹敵するようなワーグナー上演が果たしてこれまでにあったか。
少なくとも私は1990年頃から主要な公演は逃さず聴いているつもりだが、正直、ほとんど思い当たらない。
(ふと、アバドベルリン・フィルをピットに入れて上演した「トリスタンとイゾルデ」(2000年)を思い出したが、そういえばあれも「ザルツブルクイースター音楽祭」ではなかったか!? なんてことだ!!)
 
演出が多くの制約下にあったことを考えれば、このとてつもない名演を成し遂げたのは、純粋に演奏の力による。そしてその演奏を導いた立役者が、他ならぬ指揮者ティーレマンである。
 
私はこの稀代のワーグナー指揮者を最大級に讃えたい。ワーグナーに限って言うならば、今この時代にティーレマンがいるのなら昔の古き良き時代を羨むことはない。その必要がない。フルトヴェングラークナッパーツブッシュカラヤン?「だからなんだ」と私は言いたい。
 
ワーグナーの愛好家は、その演奏に何を求めるか。
スケールの大きさ、雄大さ、風格、重厚な響き、宇宙的な広がり、夢と憧憬、官能性と陶酔・・・。
昨日のラインゴールドに、これらはすべてあった。そして、これらすべてが兼ね備わった時、そこにドラマが生まれた。
 
ティーレマンのタクトで、もう一つ「さすがだな」と思ったこと。
歌手の方に寄って行かないのである。
逆だ。泰然と懐を広げながら歌手に対し「ここに入って来い」と促している。
ある意味で、歌手たちは大変だ。入りそびれようものなら、たちまち重厚なサウンドに巻き込まれ、轢かれてしまう。
一方で、指揮者の懐の中に入り込んでいれば、安泰が約束される。声は守られ、オーケストラの響きの中から浮かび上がらせてくれる。
 
歌手たちは全員がパーフェクト。フライア、エルダ、ラインの娘たちなど、脇役と言われる役の歌手でさえ、素晴らしい。(フロースヒルデ役のS・シュレーダーは、新国立劇場に来ればたちまち「フリッカ」役なのだ。)
錚々たるメンバーの中でたった一人だけその名を知らなかったローゲのK・シュトライトは、新たな発見だ。演技も非常に細かく、影の主役を見事に演じていた。