クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2024/6/25 ロイヤル・オペラ・ハウス リゴレット

2024年6月25日   ロイヤル・オペラ・ハウス   神奈川県民ホール
ヴェルディ  リゴレット
指揮  アントニオ・パッパーノ
演出  オリヴァー・ミアーズ
ハヴィエル・カマレナ(マントヴァ公爵)、エティエンヌ・デュピュイ(リゴレット)、ネイディーン・シエラ(ジルダ)、アレクサンデル・コペツィ(スパラフチーレ)、アンヌ・マリー・スタンリー(マッダレーナ)    他

 

海外からのオペラ引っ越し公演そのものが年々厳しさを増す状況下、こうしてロイヤル・オペラ・ハウスの来日が5年ぶりに実現したことは、まずは素直に喜びたい。主催者・関係者の多大なる尽力にも敬意を表したい。私は今回、もう一つの「トゥーランドット」はパスし、リゴレットのみにした。

こうしたオペラの引っ越し公演で楽しみなことの一つは、現地に行かないとなかなか聴くことが出来ない一流歌手を聴けることだと思うが、その意味でJ・カマレナ、E・デュピュイ、N・シエラという3人の揃い踏みは、なかなかの豪華さ。さすがはROHである。

特に、カマレナ。
待ちわびた。ようやく日本に来てくれた。世界でもトップ級の歌手だ。
だが・・・。
最高級テノールの実力の片鱗は見せたとは思うが、これは私が知っている本来のカマレナではない。ハイトーンも苦しそうだった。もっと軽々と、スコーンとかっ飛ばすことが出来るはずだが・・。
単にこの日の調子がイマイチだったのか、それとも徐々に声が重くなった分、高音が厳しくなってきているのか、そこらへんは分からない。

N・シエラのジルダは素晴らしかったと思う。
初めて彼女を聴いたのは2016年だが、その時の印象は、「綺麗な声だが軽い」という感じだった。8年の歳月で進化を遂げ、声が充実している。しかも、まだ完成しておらず、絶頂期はまだ先にあるかのような期待感も抱かせる。これからの活躍が益々楽しみな歌手。アメリカ出身のソプラノは、リセット・オロペサとネイディーン・シエラの二人が、これから引っ張っていくものと思われる。

デュピュイは、今回のリゴレットで日本のオペラファンに名を売ったのではないか。
当初の予定キャストはカルロス・アルヴァレスで、いわば代役だが、欧米では既に注目株の新進気鋭。奥さんのニコル・カーと共に、今後の動向に目が離せないバリトンだ。


指揮のパッパーノ。
ROHの音楽監督としての契約が今シーズンをもって終了。今回の来日公演は見納めである。
9月からは名門ロンドン交響楽団の主席指揮者に就任するが、私としては、ちょっと残念な気分。なぜなら、彼の場合、オペラこそが彼のフィールドだと思っているからだ。
とはいえ、確かに20年以上にわたってROHのシェフだったわけで、十分に務めたとも言える。次のステージにステップアップするタイミングだったのかもしれない。

パッパーノという指揮者は、作品を細かく分析し、作曲家の意図を理解し、それを正確に表現することが出来る才能の持ち主だ。今回のリゴレットで、私は舞台上だけでなくピットの中もずっと注視していたが、単純にテンポを刻んでいたり、流れに身を任せていたり、という瞬間がほとんど無かった。タクトは常に明確な指示となり、最初から最後まで統率されていた。

「歌手の声をコントロールし、オーケストラとのバランスを整え、音楽をドラマチックに構築し、舞台芸術を創造する。」
以上がオペラ指揮者の役割だとするなら、やっぱりパッパーノこそが最適任者だと思うのだが・・・うーん、仕方がない。
今後は、是非ウィーンとかバイエルンとか、そういう一流歌劇場に客演してほしいものだ。


演出について。
ま、一言で言うと、普通(笑)。
確かに、マントヴァ公爵を「女性を、絵画と同様に物扱いにするコレクター」にし、低俗な貴族社会を描いた点、それから、閉じ込められて自由が無いジルダが父に不満を抱いた挙げ句、嘘をついて逢引しようとするなど、反抗と苛立ち、そして自立の意思を垣間見せる点については、演出家が捉えたポイントとしては悪くない。
ただ、リゴレットの演出では、暴力的なシーン、性的なシーンも含め、作品に内在する狂気さ、不道徳、不条理を浮き彫りにする解釈は、今や珍しくないどころか、むしろ常套で、ありふれている。

そういうことで、普通。