クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2013/7/12 リゴレット

 オペラ会場に向かうため、午後8時50分頃にホテルを出た。日はかなり傾いているものの、この時間でまだ明るさが残っている。日中に比べれば暑さはかなり和らいでおり、とても過ごしやすい時間帯だ。半袖で十分だが、夜半にかけて気温が下がることを想定し、念のため長袖シャツにジャケットを着用。ネクタイはせず。(ここの音楽祭は、正装の必要なし。)
 
 編成の大きなオペラ、小編成バロックオペラ、コンサート、室内楽などの種別に応じて会場を市内の幾つかに分散させているエクサン・プロヴァンス音楽祭。中でもメインとも言える由緒ある会場が、旧大司教館の中庭に特設されたアルシュヴェシェ劇場であろう。
 歴史的な建物である旧大司教館は現在タペストリー博物館として公開されている。見学のために昼間に同館を訪れると、中庭の会場でちょうど夜のオペラの舞台セッティング最中であった。当然中には入れないが、ドアの隙間や窓から様子を伺うことが出来た。一部、舞台装置と小道具を事前に見てしまった(笑)。
 中庭のため、客席は当然野外。(舞台にはちゃんと屋根が付いている。)雨が降ったらアウトだが、そもそもプロヴァンス地域はこの時期はほとんど雨が降らないらしい。
 
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2013年7月12日  エクサン・プロヴァンス音楽祭  アルシュヴェシェ劇場
指揮  ジャナンドレア・ノセダ
合唱  エストニア・フィルハーモニック室内合唱団
オルグ・ガグニーゼ(リゴレット)、イリーナ・ルング(ジルダ)、アルトゥーロ・チャコン・クルス(マントヴァ公爵)、ガボール・ブレッツ(スパラフチーレ)、ホセ・マリア・ロ・モナコ(マッダレーナ)   他
 
 
 共同制作として、ライン国立歌劇場(ストラスブール)、ブリュッセル・モネ劇場、モスクワ・ボリショイ劇場ジュネーヴ大劇場の名が連ねてあった。
 この日は中継カメラが入っていて、テレビの生放送のほか、プロヴァンス地方の数都市で同時ライブビューイングも行われていた模様。
 
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 幕が上がる前の序曲の最中に、ピエロ姿のリゴレットが登場。客席に向かって思い切り高笑いしたかと思いきや、突然大声で泣き崩れる。手元にはジルダの遺体(人形)が入った袋・・・。
 
 このピエロに仕立て上げられたリゴレットを見て、すぐに我々オペラファンは別のもう一つのオペラを想起する。そう、レオンカヴァッロの道化師パリアッチだ。おどけた振舞いをしながら、心の中ではドロドロとした憎悪に満ち、結局災いが自らに降りかかり、そして泣く。道化であるがゆえの悲劇。
 実際のところ演出家カーセンがレオンカヴァッロのオペラと関連させているかどうかは不明だが、「きっと意識したに違いない」と思わせる心憎い演出に、冒頭から思わず唸る。
 
 幕が開くと、舞台の場所は宮殿内ではなく、見世物小屋の中。ただしサーカスのような楽しいショーではなく、大人の男連中を呼び込むストリップ劇場だ。マントヴァ公はこの劇場の支配人という設定で、冒頭の「あれかこれか」のアリアを歌っている最中、ステージでは踊り子女性のストリップダンスが披露される。これが妙に音楽に合っていて、可笑しい。
 リゴレットは、卑猥で目を覆うようなおふざけをして見せ、舞台上の男性客を笑わせている。お子ちゃまに見せてはいけないようなシーンの連続だが、これもまたいかにもカーセンらしいやり方。
 
 一方、ジルダはキャンピングカーのような車の中に閉じこもって生活している。転々と流れ渡る一座の家族という設定。アングラな商売なので肩身も狭く、友だちもできない。当然のごとく世間との繋がりが遮断されてしまうわけだ。
 有名な「慕わしき御名は」のアリアは、ブランコに乗ったジルダがそのまま宙乗りのようにせり上がる中で歌われる。ひとり夜空の星に願い事をしながら歌う様子が、彼女のはかない夢と孤独さを表しているようで、美しい歌と併せて観客の心を打つ。
 
 このようにカーセンは大胆な読替えをしつつ、この悲劇が巻き起こる背景や要因、ポイントを鋭く押さえている。巧妙かつ入念に物語の必然性に説得力を持たせている。さすが、である。
 
 音楽的には、指揮者ノセダがヴェルディの旋律を非常に繊細に扱って、美しいことこの上ない。音楽に完全没入し、どの場面でも力を緩めず全力でタクトを振っている。
 一瞬、テレビカメラが入ったことによる気合の入れ様かと思ったが、すぐにこれを否定。ノセダはそういう指揮者ではない。この指揮者による公演を何度となく聞いているが、常に音楽に対して忠実に誠実に奉仕する。その姿勢は本当に素晴らしい。
 
 歌手について。
 主役のガグニーゼだが、上手にこなしているが、圧倒的な存在感を打ち出すには至らない。この日のカーテンコールではブラヴォーを沢山もらっていたが、ヌッチの裏キャスト扱いの日本公演ではちょっとそういうわけにはいかないかもよ。日本のお客さん、結構厳しいよ(笑)。
 マントヴァ公のチャコン・クルス。なんか雰囲気がR・ヴィリャゾンに似ているのだが、案の定というか、同じメキシカンだと。ただし歌いっぷりは全然違うけどな。彼も、この秋日本にやってくる。新国立劇場でホフマンを歌うことになっている。まあ頑張ってください。あたしゃ行かんが。
 ジルダのルングも普通だったかなあ・・・。
 
 え? 相変わらず辛口評価だって??  あらそう?? そんなことないってばさあ(笑)。
 
 終演時間は日付が変わって午前0時10分。防寒対策を施したが、夜半になっても穏やかなままで、全く不要だった。
 この時間になっても、カフェのテラステーブルが所狭しと並ぶ市庁舎前の広場は大賑わいで、仲間たちと杯を重ね、笑い、語り合っている。ここぞとばかりに夏のバカンスを楽しんでいる人たちの宴は、いったいいつまで続くのだろうか。