クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

映画「テノール! 人生はハーモニー」

WOWOWで放映され、録り貯めておいた映画「テノール! 人生はハーモニー」を観た。
2022年制作のフランス映画。

この映画は、タイトルのとおり、物語がオペラと関連している。

内容について簡単に紹介すると、主人公はパリの小さな寿司店でフリーターとして働いている下町のラッパー青年。本人は自身の才能に気付いていないが、秀でた歌唱力の持ち主。寿司の配達先(なんとパリ・オペラ座!)で、ふとしたきっかけでその歌声を発したところ、一瞬にしてその秘めたる才能に気が付いたオペラ座の専任教師が、熱烈スカウト。オペラなんかに関心がなかった青年だが、熱意に押されてレッスンに通うようになり、やがて本格的なテノール歌手としてのオーディションに挑んでいく、というもの。


いわゆるサクセスストーリー物で、「いかにも」「ありがち」的な展開。全体を通しての感想としては、はっきり言ってしまうけど「チープ」。
いくら隠れた才能があって熱烈スカウトを受けたからといって、クラシック音楽のクの字も無い(当然楽譜も読めない)ラッパー青年が、まったく別世界のオペラに目覚めていくという流れは、やっぱり相当の無理がある。

ただし、主人公の育ってきた環境、あたかも身分や階級の格差のような場違い感、誰にも相談できない、誰も理解してくれない周囲に対する苦悩などは丁寧に描かれているので、そこらへんが見所と言えようか。


レッスンやオーディションの場では、パリ・オペラ座ガルニエ宮がロケーションとして使用されていて、豪華さや眩さがこれでもかとばかりに映し出されている。
なんでも、ガルニエ宮での長期間に渡る映画撮影は、普段ならなかなか許可が下りないのだが、たまたまコロナ禍の時期だったので、運良く借りられたのだとか。
オペラやバレエのファンで、ガルニエ宮で鑑賞したことがある人、あるいは観光で劇場内部を見学したことがある人は、ため息が出るくらい美しい映像を食い入るように見つめてしまうことだろう。


驚いたのは、なんとロベルト・アラーニャ様が、本人役として御出演。一流歌手としての歌声を響かせていた。(さすが、フランス映画)
上で、「ラッパー青年がオペラに目覚めていく流れには無理がある」と書いたが、青年がアラーニャの歌声を直接聴いたことが目覚めのきっかけの一つになっているので、まあ、それなら少しは納得するといたしましょうか。


主人公のアントワーヌ役を演じたのは、「MB14」というフランスのラッパー兼ビートボクサー
それ故、披露されたラップの腕前はさすがの本格的。
その彼が、吹き替えを使用せずに自声でオペラ声楽に挑んだのは、ある意味大したもの。かなりの特訓を積んで撮影に臨んだものと思われる。

が、しかし・・。
シロウト一般の映画視聴者に対してなら、うまくごまかせるかもしれないが、クラシック音楽ファンの耳はごまかせない。あの程度で「類まれなる才能」とかありえないので、申し訳ないけどオペラ・ファンを唸らせるためには吹き替えを使用した方が良かったと思う。少なからずのそういう人たちが、タイトルに惹かれて映画を観ているのだろうから。

あと、各劇場の関係者が集り、契約を勝ち取るための最終オーディションの場で、主人公が歌う曲が「誰も寝てはならぬ」というのも、無いよなー(笑)。ありえん。

やっぱりこの映画は大衆向けだ。


最後に一つ、映画を観て考えたこと。
物語の全体的な流れとして「いかにも」「ありがち」「チープ」などと評してしまったが、自らまったく気が付いていなかった声楽の才能が発掘され、その才能が開花するというのは、「現実としてある」と思う。

他の楽器、例えばピアノでもヴァイオリンでも、初めて楽器に触れる時点では、誰でも初心者。初めて楽器に触れて、いきなりスラスラと演奏する、なんてことなど絶対に無いし、初めて楽器に触れて演奏した音を聴いて「君は才能がある!」なんて見出されることも無い。

ところが、歌だけはその可能性がある。声というのは、生まれた時から誰もが使っているし、才能によってそれを自然に上手に駆使出来る人はいる。

そこらへん、「駆けっこ」と一緒。
誰かから教わったわけでもないのに、練習しているわけでもないのに、めちゃくちゃ速い。その才能が認められ、専門的な陸上競技の訓練を施され、やがて一流選手にのし上がる。

実際、プロ歌手で、ずいぶんと遅くなってから歌手に転向した人は、いる。ハンブルク・フィルでホルン奏者だったが、才能に気付いた妻の母の勧めによって27歳になってから歌手に転向した“あの人”のように。

声というのは特殊な楽器であり、歌唱というのは特別な才能だ。