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2024/5/22 ファウスト

2024年5月22日   ウィーン国立歌劇場
グノー  ファウスト
指揮  ベルトラン・ド・ビリー
演出  フランク・カストル
ピョートル・ベチャワ(ファウスト)、アダム・パルカ(メフィストフェレス)、ステファン・アスタコフ(ヴァランタン)、パク・ジュスン(ワグネル)、ニコル・カー(マルグリート)、パトリシア・ノルツ(シーベル)   他

 

ウィーン国立歌劇場のフランス物レパートリーは、ド・ビリーの管轄下だ。劇場が「キミに任せた!」って感じで、出番が多い。私はちょうど一年前にも、彼が振るプーランク「カルメル派修道女の対話」を鑑賞した。

この歌劇場は、新演出ではない通常レパートリー作品なら、オーケストラ・リハを行わず、ぶっつけ本番でやる、というのは有名な話。
だからこそ、何度も共演していてお互いにやり慣れており、信頼の置ける指揮者が重宝する。ド・ビリーは、ウィーンでそういう指揮者だ。

実際、ド・ビリーの指揮は、安定感がある。派手さはないが、すべて手中に収めている感じがあるし、しっかりとツボも押さえている。
時々繰り出す「ここ!!」という箇所では、グイッと音が引き出されるので、そこら辺はオーケストラとの絶妙の阿吽の関係が見て取れる。それに、天下の国立歌劇場管(ウィーン・フィル)、感度は抜群に良好だし、やっぱり惚れ惚れするくらい上手い!


歌手について。
P・ベチャワは、2016年のザルツブルク音楽祭で、このファウストを歌っている。つまり、彼のレパートリー・ロールだ。
私は2011年以来、久しぶりに彼の歌唱を聴いた。美声は相変わらず。以前に比べ、柔軟性が進化している印象。その間にローエングリンなどワーグナーの役にも進出し、幅を広げてきた成長の証ということだろうか。
世界的な一流歌手ということで、彼がアリアを歌い終わると、ひときわ大きなブラヴォーが飛ぶ。

N・カーは、3月にパリで聴いて、とても鮮烈な印象だった。今回のマルグリートも素晴らしい。声の線は決して太くないのだが、澄んでいて瑞々しく、かつ、ここぞという時のダイナミックさも持ち合わせている。フランス語の発音、ニュアンスも完璧。成長著しい、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのソプラノ歌手。
特に、ここウィーンでの活躍が目覚ましくて、この「ファウスト」の直前まで、ヴェルディオテロ」のデズデモナで出演していた。
更に来シーズンも、「ドン・ジョヴァンニ」のドンナ・エルヴィーラ、「コシ・ファン・トゥッテ」のフィオルディリージ、「ホフマン物語」のアントニア、「ドン・カルロ」のエリザベッタの出演がクレジットされている。
これ、ちょっとすごくない?? もう何だか、ウィーンのプリマ・ドンナになりそうな勢いではないか。

メフィストフェレスのA・パルカも、歌と演技の両方で獅子奮迅の大活躍。彼に対しても、ベチャワに次ぐ大きなブラヴォーが送られていた。

それにしても、やっぱウィーンは登場してくる歌手のレベルがハンパないわ!
上記の主役級が上手いのはある意味当然として、脇役のシーベル役のP・ノルツも、マルタ役のM・ボヒネツも、本当に素晴らしい。もう唸るしかない。


演出について。
カストルフの演出を観るのは、昨年4月のベルリン・ドイツ・オペラの「運命の力」から二年連続。
時代設定は現代に近づけている。場所はパリ。ファウストはドイツの物語だが、どうやら演出家は作品の中にパリっぽい面影を見出した模様。
回り舞台を使用、また舞台上にスクリーンを設置し、ライブ・カメラの映像を流す手法を採用しているのは、まさにベルリンの「運命の力」と同様。これがカストルフのやり方なのだろう。裏まで覗くことが出来る見やすさという点で、非常に優れている。

本来シーベルは、女性歌手が歌ういわゆるズボン役、つまり男役のはずだが、本演出では女性になっている。ということは、同性のマルグリートに恋するレズビアンなのだろうか。
また、マルテ役も、ただの隣人のおばさんではなく、怪しげな闇の手配師みたいな装いで、曰くあり気。
こうした部分も含めて、パリの退廃的な空気をよく捉えていたと思う。


ところで、Mさんの奥様が、「以前に比べて、日本人のお客さんが随分と減った気がする。」と話していたのだが、確かに私もそう感じた。コロナから立ち直れていないというのもあるかもしれないが、円安の影響は間違いなく大きいと思う。字幕対応も日本語はどうやら撤収になったみたいだし。