クラシック、オペラの粋を極める!

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2023/5/24 ウィーン カルメル派修道女の対話

リエージュからウィーンへ移動。
さすがに電車移動は厳しいので、ブリュッセル経由で飛行機に乗った。リエージュから空港まで、電車でおよそ1時間。ブリュッセルからウィーンまでのフライトは、およそ1時間40分。(ただし、約20分遅延)

この日は移動したのみで、ウィーンでの観光は無し。

5月18日の「死の都」鑑賞記にて、「キラー・オペラ作品というのがあり、『死の都』はそのうちの一つ」と書いた。
実は、この「カルメル派修道女の会話」も、私のキラー・オペラ作品である。
ウィーン国立歌劇場2022-23シーズンの新制作演目の一つ。この日はプレミエ開幕からの二日目。

 


2023年5月24日   ウィーン国立歌劇場
プーランク  カルメル派修道女の対話
指揮  ベルトラン・ド・ビリー
演出  マグダレーナ・フックスベルガー
ニコル・カー(ブランシュ)、ベルナール・リヒター(シェヴァリエ)、ミヒャエラ・シュスター(クロワシー修道院長)、マリア・モトリジーナ(リドワーヌ修道院長)、イヴ・モー・ウブー(マリー)、マリア・ナザロワ(コンスタンス)   他


素晴らしい上演を期待して臨んだのであるが・・・そう、期待ゆえに求めるハードルが上がってしまい、残念ながら物足りなさ、がっかりを感じてしまった公演。

その原因のほとんどは、演出にある。
骨組みだけの家の中で物語が進行し、この建物を回り舞台装置で回しながら場面転換させるのであるが・・・この回り舞台装置による骨組みの家って、つい先月ベルリン州立歌劇場で観たチェルニャコフ演出の「ニーベルングの指環」の装置とまったく一緒なのだ。「なんじゃこりゃ??」と思ってしまった。
いや、これは単なる偶然だし、私が勝手にチェルニャコフ版と比較しているだけなのだから、そこらへんは申し訳ないのだが・・。

そもそも、回り舞台という演出手法自体が、実はそれほど面白くない。
確かに多面的で、裏側も見せられるという意味で注目点なのかもしれないが、視覚的にすぐに飽きが来てしまうのである。

また、その家の中でウロウロしている天使や悪魔を象徴するかのような黙役のダンサーたちが、意味不明。

究極のがっかりは、このオペラのハイライトにしてクライマックス、ラストの断頭台の場面、「サルヴァ・レジーナ」。

死刑台上の修道女たちは、ミサの祭り事に着るようなきらびやかな衣装と仮面(黒いメッシュ状の布のため、本人たちの視覚と声は通るようになっている)を被り、ゆらゆらと体を動かしながら歌う。そして、ギロチンの音とともに、一人ずつ後ろを向き、歩いて退出する、というものだった。

これが全然真に迫って来ない。
この場面が感動的なのは、神に全てを捧げた修道女たちの崇高な誇りと、そうは言っても死を目前にして当たり前に抱く恐怖感情、そしてギロチンの音と共に声が減っていく残酷さ、こうしたものが渾然一体となって迫ってくるからであり、それゆえ我々は心を揺さぶられるのである。

今回の演出で、上に書いたとおりきらびやかな衣装を纏い、仮面を被ったせいで、彼女たちが人形(あるいはロボット)のように見えてしまい、修道女という人間に対してまったく同情出来なかった。


指揮は、ウィーン国立歌劇場のレパートリー上演をガッチリと支える重要指揮者の一人、ド・ビリー。プーランクの傑作のプレミエを出すにあたり、ド・ビリーが指揮者に任じられたのは、単にフランス人だからというだけでなく、その貢献度から言っても至極順当、当然であろう。

今回彼が作った音楽の感想は、一言で「堅実」。
隙がなく、音楽ファーストで、オレがオレがと出しゃばらない優等生タイプ。良い意味でも悪い意味でも真面目。
何だかいかにもド・ビリーらしい。


主役のブランシュを歌ったニコル・カーは、近年、各地の劇場にてその名前をよく見かけるようになった。年齢的にはそろそろ中堅に差し掛かっているが、まだまだ成長株であることは間違いない。オーストラリア出身だが、パリを活動拠点にしているとのことで、フランス語も問題なし。
声が蒸留水のように透き通って美しい。これからもっと歌唱に磨きがかかって、更に飛躍していくことだろう。

マリー役のイヴ・モー・ウブーは、これも演出のせいだと思うが(そう、とにかく全部演出のせいなのだ・・)、何だか小姑のような怖くてうるさいオバサンのような感じになってしまっている。
クロワシー役のシュスターは、逆に歌よりも本人の迫真の演技の方が目立ってしまった。この人、演技が上手すぎるんだ。
もともとは本格派、実力派の名歌手なのだが、演技が上手すぎるあまり歌を上回ってしまうというのは、ちょっといかがなものか・・・。


というわけで、全体として、うーん・・なんだか・・・。
天下のウィーン国立歌劇場だぜ!?  この1公演だけのためにウィーンに来たんだぜ!?
あーあ。
そして、改めてオペラにおける演出の重要さを痛感。


ちなみに、ここの劇場の字幕は個別の座席にて多言語で対応していて、その中に日本語も含まれていたが、今回行ってみたら無かった。
先月に訪れた際の「パルジファル」では対応していたので、個別の上演作品によるのかもしれない。頻繁に演奏される演目なら対応済だが、今回のようなあまり上演されない演目の新制作だと、対応が難しいのかもしれない。

まさか、日本からのお客さんが激減したので、削除されちゃったなんてこと、ありませんように。
日本の観光客の皆さん、世界的なオペラ座ウィーン国立歌劇場に是非行きましょう!