クラシック、オペラの粋を極める!

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2023/10/28 つばめ

2023年10月28日   チューリッヒ歌劇場
プッチーニ  つばめ
指揮  マルコ・アルミリアート
演出  クリストフ・ロイ
エルモネラ・ヤオ(マグダ)、サンドラ・ハマオウィ(リゼット)、バンジャマン・ベルネーム(ルッジェーロ)、ファン・フランシスコ・ガテル(プルニエ)、ウラディーミル・ストヤノフ(ランバルド)、アンドリュー・ムーア(ペリショー)   他


ヤオさん、終演後のカーテンコールで、泣いていた。
お客さんの上々の拍手喝采に感動したのか、自身の歌唱の出来に大いに満足がいったのか・・・。

公演のスケジュールを見たところ、今回のニュー・プロダクション「つばめ」、合計8回のチクルス上演で、この日がその最終日だった。

最後までやりきった、やり遂げた、そういう達成感、満足感だったんだろうね、きっと。

こうして心の思いを率直に表出して感極まっている人を見ると、お客さんだってついつい感情移入してしまうもの。
「よく頑張ったぞ!」「素晴らしかったよ!」
喝采がますます熱を帯び、ブラーヴァの掛け声が増量し、そしてそれを受け取ったヤオさんがまたまた感動して涙が止まらない・・・。

見ていて素敵な光景だったとは思う。

だが、ここは一つ冷静に客観的にエルモネラ・ヤオの歌唱について評してみると、手放しの称賛というわけにはいかない。

テクニックや表現力には秀でたものがあり、一目置くことが出来るが、残念ながら彼女には致命的な部分があって、声質そのものがガサガサしていて、美しさ、透明感に欠けるのだ。これは惜しい。

声質って歌手自身の特性そのものなので、変えられないし、そう簡単に磨き上げられるものでもない。だからこそ「惜しい」。


ベルネームは、これまで脇役出演のオペラを何本か観ているが、主たる役を歌うのをじっくりと聴くは初めて。春風が吹くような爽やかで清涼感のある歌声が魅力的だ。ここぞという場面でのパワーもある。そして、細身で背が高くてカッコいい。いいテノールではないか! 女性ファンのハートもガッチリ掴みそう(笑)


指揮のアルミニアートは、イタリアの何でも屋さん。
皆さま、何かお困りなことはありませんか? イタリア物ならお任せあれ。あれもこれも、卒なく、過不足なく、無難にこなします。
今回の「つばめ」では、プッチーニ特有の甘い旋律を、べっとり感を落としつつ、しっとり感はそのまま、メリハリの効いた風味に仕立てながら、歌手たちを支え、盛り上げていた。


演出は、現代演出の第一人者、ロイ。
どんな作品でも常に現代に置き換え、現代人として物語を見つめることで、古めかしい作品を蘇らせる手法が定番になっているわけだが、今回の「つばめ」、元々の物語がそれほど古臭くなく、場面の設定がそもそも現代に相通じていて、そうなると、途端にロイお得意の魔法が効かなくなっていくという、超皮肉。これはもう苦笑するしかない。現代演出家の限界が垣間見えた。

だったら、いっそのことこれを逆手に取り、思い切り時代を遡って、中世の話とかにしちゃえばいいんじぇね?? と思ったが・・・。
まあそういうことはしないんでしょうねぇ。

面白かったのは、マグダが「さよなら」と言ってルッジェーロと別れ、悲しみに暮れる最後のクライマックスで、シーンを第一幕冒頭のサロンの場面に戻すという演出。
この「冒頭の場面に戻す」というやり方、前日のミラノ・スカラ座の「ピーター・グライムズ」と、まったく同じだ。
もちろん単なる偶然だが、それゆえ印象に残るものとなった。