2023年11月5日 ボローニャ市立歌劇場 東京文化会館
ベッリーニ ノルマ
指揮 ファブリツィオ・マリア・カルミナーティ
演出 ステファニア・ボンファデッリ
フランチェスカ・ドット(ノルマ)、ラモン・ヴァルガス(ポリオーネ)、脇園彩(アダルジーザ)、アンドレア・コンチェッティ(オロヴェーゾ)、ベネデッタ・マッツェット(クロティルデ) 他
今回のボローニャ歌劇場、引っ越し公演を敢行したその意義、目的は、いったい何だったのだろう。
「単なる出稼ぎ」という、身も蓋もない本音はとりあえず置いておき、もし「由緒、伝統あるイタリアの名門歌劇場としての存在価値や品格を改めて知らしめる」というのであったとしたら、果たしてその成果はどの程度達成されたであろうか。
一方で、「ベルカントの魅力を伝え、歌声、イタリアオペラの素晴らしさを再認識させる」ということなら、これはもう、この一公演だけで十分に披露されたと言えるだろう。
それくらい、歌手、そして合唱が魅惑的でお見事だった。
アダルジーザを歌った日本人歌手、脇園さんの健闘、活躍を祝福せずにはいられない。
この日、事前アナウンスにて、「体調不良、ただし本人の強い意思により出演」というお断りが入ったが、そんなこと微塵にも感じさせない、「うそ? これで体調不良なの?」と思わずにはいられない、素晴らしい熱唱だった。
こういう外来公演では、主催者の要望注文によって、ゲストで日本人を出演させる、ということがよくあるが、脇園さんは、正真正銘、現地公演で本プロダクションに参加したキャストだ。
(ただし、ダブルキャストのセカンドではあったが・・)
また、プロフィールに箔を付けるためだか何だか知らないが、「ミラノ在住」「ローマ在住」みたいな、「おまえ、一体そこで何やってんだよ!?」と首を傾げざるをえない日本人歌手をよく見かけるが、脇園さんは、これまた正真正銘、イタリアを拠点にして、現地公演での出演を重ねるれっきとした海外組である。
活躍の頻度からしたら、今、現役ナンバーワンかもしれない。
その実績と自信、風格が、本公演での歌唱に如実に示されていた。
上に書いた「来日公演の意義、目的」において、もし「脇園彩の凱旋公演」というのが入っていたのなら、私は大いに溜飲を下げ、「よくやった!」と喝采を叫ばずにはいられないだろう。
タイトル・ロールのF・ドットも、これまた良かった。
日本には、2018年9月、ローマ歌劇場の来日公演で、「椿姫」のヴィオレッタに出演しており、お披露目済。印象としては、5年の歳月を経て、一段と声のスケールが上がった感じ。
スケールが上がったといっても、声が大きくなったというわけではなく、声の芯に凝縮されたパワーが蓄積された、とでも言おうか。もちろん、「ノルマ」という役のキャラクターのせいというのもあるかとは思う。
ビッグネームのラモン・ヴァルガスは、決して衰えたとまでは言わないが、やはり往年の頃の華は欠けてしまった。今年の5月、ベルギーのリエージュで彼が出演するオペラを観たが、まったく同じ印象。
今回のボローニャ歌劇場の来日では、ヴァルガスに加え、M・グレギーナ、M・アルヴァレスなど、言っちゃ悪ぃけど「昔の名前で出ています」がキャストに名を連ねていたが、こうしたロートルに頼らざるを得ない、そうじゃないと売れない、日本のオペラ興行市場のショボさをひしひしと痛感する次第。
同じく「そういえば、昔、華々しく活躍してたよねー」と、思わずその名を見て声を上げてしまったのが、ステファニア・ボンファデッリ、なんと、演出家(笑)。
ボンちゃん、演出するんだあ・・。へぇーー。
全然期待はしていなかったが、「ノルマ」という作品を演出家として見つめ、何を発見し、何をやりたかったのか、については、観客にしかと伝えていたと思う。
例えば、ノルマもアダルジーザも、巫女でありながら、いざという時は女戦士になって、民族のために出陣する、という視点は斬新だったと思うし、民族の絶え間ない紛争を根底に敷いたのは、まさに現代、今の情勢と重なる部分があって、先見の明があったと言えるだろう。