2024年4月11日 ダニール・トリフォノフ ピアノ・リサイタル サントリーホール
ラモー 新クラヴサン組曲集より
モーツァルト ピアノ・ソナタ第12番
メンデルスゾーン 厳格なる変奏曲
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第29番 ハンマークラヴィーア
「完璧」という言葉が相応しいコンサートだったと思う。
まず、選定されたプログラムがいい。
ラモー、モーツァルト、メンデルスゾーン、そしてベートーヴェン。
全体としてのまとまりがあり、時代の流れのようなストーリー性があり、「ハンマークラヴィーア」でクライマックスに到達する構築性がある。この配置は、単なるセンスの問題だけではなく、劇的効果も視野に入れた周到な推考の末の結論と思われる。
肝心の演奏も完璧である。
作品ごと、あるいは楽章ごとにタッチを変えて異なる音色を創作し、ダイナミックさと併せて強い必然性と説得力が伴っているが、これらについても上記と同様、哲学的な思索の成果だ。
ついでに、デビュー時の若造イケメン貴公子からイメチェン脱却し、髭を生やして本格実力派の雰囲気を漂わせる自己プロデュース力も、これまた完璧。
以上、「完璧」という言葉をつらつらと並べたが、ならばこれが彼の頂点、完成形かというと、まだまだ深化しそうな気配も十分。今後も実に楽しみな逸材だ。
しかし、それにしても、ベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」、ホントとてつもない作品だなあ。
久しぶりに生で聴いたが、宇宙を織り成すかのような、まさにピアノの金字塔と言える傑作だ。
この曲の生鑑賞体験で、超絶名演として忘れられないのが、ポリーニの演奏。
改めて、故人を偲びたい。