数えてみたら、私はミュンヘンは13回目だった。だけど、私の相棒は17年前に初めて訪れて以来、この美しく魅力溢れる芸術の都の再訪を渇望していて、「いつか」のチャンスをずっと待っていた。
「なあ。今回はビッグチャンスだぜ。グル様のノルマだぜ。んでもって、そのままウィーンに移動したらムーティのコジだぜ。行くっきゃないよ。」
友人O君(マルじゃなくてオーくんね)は矢よりも早く即答した。「行くっっ!」
ふふっ、そう来ると思ったよ。
O君はグルベローヴァのオペラを見たことがなかった。17年前に訪れたバイエルン州立歌劇場でグルベローヴァのルチアのチケットを苦労して手に入れたのに、なんとグル様はキャンセル降板してしまったのだ。
更に、O君はベルカントオペラの最高傑作ノルマの上演をまだ見たことがなかった。
更に更に、O君はグルベローヴァがキャリアの最高到達点で、満を持してついにノルマに着手したというニュースを、このわたくしから散々聞かされていた。コンサート形式ではなくオペラ上演形式ではミュンヘンが現時点で世界で唯一であることも。そういうことで、今回の旅行は彼にとってスペシャルであった。
私にとっても今回はスペシャルである。それはウィーン国立歌劇場でムーティがモーツァルトのコシ・ファン・トゥッテを振るからだ。2007年4月に07-08新シーズンのスケジュールが発表され、ムーティのコジ音楽新校訂上演を見つけたとき、心が躍った。2006年4月にウィーンで体験したマエストロのフィガロの結婚は圧倒的な名演であった。その時「絶対に次がある」と確信した。フィガロの次・・それはコジでしょう!?その予感が当たったのだ。
その時点で、まさかこの演目を引っ提げて日本にやって来るとは夢にも思わなかった。
最初から日本にやって来ることが分かっていたら、このミュンヘン・ウィーン旅行は無かったかもしれない。だけど、そんなことはつゆ知らずだったのだ。日本では体験できない(と、その当時は思っていた)マエストロ・ムーティの渾身のモーツァルト。O君と同様、私も出発日を指折り数えて待った。
2008年2月6日。厳寒のドイツを予想していたら、思ったより暖かく、「地球温暖化かなあ」なんて思いながら、ミュンヘンにたどり着いた。
つづく。