クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2008/2/8 ウィーンの夜

 海外に行って日本料理を食べる・・・以前の私にとってそれは「考えられないこと」だった。食事も含めて現地の郷に入ることが海外旅行の楽しみではないか。なんでわざわざ海外まで行って日本料理食べなければならんのだ?

 ところが数年前、スペインを旅行していて、大変な目に遭った。読めないスペイン語のメニューを適当に指さして注文してたら、運悪く食べる物食べる物まったく口に合わず、気持ちが悪くなった。終いには腹が減っているのに何も食べたくないという状況に陥った。胃の拒絶反応だ。これはまずい。スペインからウィーンに移動するやいなや、ポリシーを変えて飛び込んだのが国立歌劇場から徒歩3分の日本料理店「優月」だった。うまかった。涙がこぼれた。以来、私はウィーンに行ったら必ず1回は優月に行くようにしている。
 そうやって通い続けていると、時には良いこともあるものだ。
 今日、その良いことが起こった。

 圧倒的なコシ・ファン・トゥッテの公演を見終えたその夜。
 口に馴染んだ日本料理を食し、おいしい酒を酌み交わしながら、公演の感動を語り合う。これぞ至福と言わずしてなんと言おう!

 酒を飲めばついついトイレが近くなる。「ちょいと失礼」と中座して、上階にあるトイレに向かったら・・・なんと、お二階の席にその方はいらっしゃった。奥様と二人。今夜のヒーロー。音楽界に君臨する皇帝。イタリアが誇る至宝。マエストロ!リッカルド・ムーティ!!!

 ギョッとして硬直した私。躊躇し、一瞬考えたが、意を決して話しかけた。

「スクーズィ(伊 すみません)・・・
「す、スタッセーラ(伊 今晩ですが)・・・
「Fantastic Mozart! I was moved very,very much!(素晴らしいモーツァルトでした。とてもとても感動しました!)(かっちょ良くイタリア語で切り出したものの、後が続かず英語に変更 orz )
「Bravo! Bravo! Maestro!」

 こう言ってムーティに向かって私はぱちぱちと拍手のポーズを贈った。
 終演後のお食事の最中、いきなり東洋人に声をかけられて当惑したであろう、マエストロ。
しかし。ニタ~っと笑って答えてくれた。
「サンキュー。日本から来たの?」

 興奮してトイレから帰還したわたくし、すかさず相棒のO君に伝えた。
「ム、ムーティが来てるっ!!」
相棒のO君、すたっと立ち上がる。「俺も行く!」

 程なくして、オレと同じように顔を紅潮させたO君が帰ってきた(笑)。
 聞けば、「今夜の素晴らしい公演をありがとうございます!」みたいなことを言ったらしい。そうしたら、何とマエストロ、何も言わずにサッと右手を差し出してくれたらしい。魔法の音色を紡ぎ出す栄光の右手をしっかり握りしめて帰ってきやがった、このやろー(笑)。

 しばらくして、マエストロご夫妻がお会計とご帰還のため階下に降りてきた。なんとマエストロの方から我々に向かって「グッドバイ」。クリスティーナ夫人まで「サンキュー。グッドバイ。」

 先に挨拶してくれたマエストロご夫妻。ええ人やなあ~。私ももちろん「チャオ!マエストロ!」
そのあとイタリア語で「buona notte」(おやすみなさい)がとっさに出て来ず、なぜかドイツ語で「Wiedersehen!」(さようなら)。

すまぬ。私は完全に酔っていたのだ。素晴らしい公演と、おいしいお酒と、思いがけない出会いに。

 マエストロは肩にコートを引っ掛け、くわえタバコでさっそうと夜のウィーンの街に消えていった。かっこいいぞ!ムーティ。本当に素晴らしい夜をありがとう!
もう一度言わせてもらおう。「Bravo! Bravo! Maestro!」