クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2009/2/15 二期会 トラヴィアータ

2009年2月15日 二期会 東京文化会館
ヴェルディ ラ・トラヴィアータ(椿姫)
指揮 アントネッロ・アッレマンディ
演出 宮本亜門
安藤赴美子(ヴィオレッタ)、井ノ上了吏(アルフレード)、青戸知(ジョルジョ・ジェルモン)、渡邊史(フローラ)他


 日本人にとって最もポピュラーなオペラ、椿姫。音楽は確かに美しく、また親しみやすい。人気があるのは分かる。
 しかし、胡散臭い父ジョルジョ・ジェルモンのせいで物語に感情移入できない私にとって、このオペラは鬼門だ。また、毎年のように公演スケジュールラインナップに並ぶのも辟易だ。

(このあたり、昨年10月30日のブログで書きました。)
http://blogs.yahoo.co.jp/hrs3927513/2697310.html

 今回の二期会、「また椿姫かよ」と嘆息しつつもチケットを買ったのは、演出家:宮本亜門なら何かひと味違う舞台を見せてくれそうな予感がしたからだ。

 第一幕の前奏曲が、結核の病に冒され末期状態のヴィオレッタが昔を思い出していることを表しているのは、曲想からして分かる。悲しげな前奏曲のメロディーが流れているところで、ヴィオレッタが病に伏せ、アンニーナと医師に看病されているところを表出させており、宮本亜門氏がちゃんと音楽を理解していることが分かる。

 この亜門氏による今回の演出のポイントはずばり「ヴィオレッタの苦悩」だ。

 彼女は、金で男爵に買われている。男爵からすれば彼女を買ったのだから、ヴィオレッタは男爵に従わなければならない。ところが、そこに‘売り買い’ではなく、‘愛’という感情の武器を持ったアルフレードが割って入ってくる。男爵が面白くないの当然だ。相手は金も出さずに自分の購入品を横取りしようとしているのだから。そこで、けんか沙汰の衝突が生じる。その狭間でヴィオレッタは苦悩する。そこを亜門氏は克明に描いている。

 第2幕で、アルフレードの父が現れて「別れてくれ」と迫るが、その際にジョルジョ・ジェルモンはヴィオレッタに金を渡そうとする。ここでも金だ。金、金・・。愛を見つけ、幸せを見つけようとしても、結局道を踏み外した女(トラヴィアータ)はその運命から逃れることが出来ない・・・。

 このように演出のポイントをヴィオレッタの苦悩に置き、ヴィオレッタの嘆きを最大限フォーカスする際に、所詮は空虚でしかない舞踏会を華美に飾る必要はない。だから、舞台装置も衣装も簡素化されるのだ。

 幕間休憩時に、「演出が最悪だ!!」と声を上げて怒っている年輩の人を見かけた。

 私はその人に心の中で話しかける。

「違うね。演出が最悪なのではない。あなたは、自分が勝手に思い描いている綺麗な舞台にならなかったことに対して怒っているだけなんだよ。じゃあ、なぜ演出家は綺麗な舞台にしなかったと思う?演出家は考え抜いたあげく‘あえて’そうしたんだよ。じゃあ、なぜあえてそうしたんだろう?演出家はいったい何を考えたのだろうか?そこまで思いを馳せると、もう一段高い次元の楽しみを得られるのさ!」


 歌手陣はよく動き、よく演技していた。ただし、アルフレード役の井ノ上氏は残念ながらブー。音程が不安定で、高音のアクートが全くさえない。たまたま調子が悪かったのか?

 二期会は、先端演出家P・コンヴィチュニーを招聘したりするなど、近年意欲的である。これからも素晴らしい公演を製作してください。