クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2011/2/26 新国立 椿姫

2011年2月26日  新国立劇場
ヴェルディ  椿姫
指揮  広上淳一
演出  ルカ・ロンコーニ
パトリツィア・チヨーフィ(ヴィオレッタ)、キム・ウーキュン(アルフレード)、ルーチョ・ガッロ(ジョルジョ・ジェルモン)   他
 
 
 再演だし、「またこれかよ」の椿姫だし、オーソドックスで平凡な舞台だし、個人的には無理して行く必要のない公演であったが、「初心者の友人にオペラの楽しさを分かってもらおう」実行委員会のプロジェクトとして、この際自分の嗜好は引っ込めた。
 私からの悪魔の誘いにまんまと乗ってきた今宵の犠牲者は、海外旅行も含めて既に何度となく一緒にオペラを鑑賞したことがあるKくんと、昨年のカルメンでオペラ初挑戦し今回で2回目のTくんの二人。Kくんと言えば、その昔、一緒にイタリアに行って天下のミラノ・スカラ座で同演目を立ち見で見た同志でもある。ただし、音楽の中身はもうすっかり忘れちゃっていると思うがな。
 
 「椿姫」-まさに初心者向けの定番。美しいメロディに満ち溢れているし、幕が開けばいきなり例の「乾杯の歌」だし、お涙頂戴の琴線に触れるシーンもあるし、物語は分かりやすいし。
「まあ大丈夫だろう、きっとそれなりに楽しんでくれることだろう」とは思っていたが・・・まさかあんなに満足してくれるとは!
 二人とも、こちらが押し付けがましく「良かったでしょ!!」なんて聞かなくても、「いやー良かった、感動した!」と口を揃えてくれました。それが単なる私に対するリップサービスではなかったことは、彼らのその表情から十分に読み取れた。
 
 いやはや、さすが椿姫だわい。日本で一番人気のあるオペラ。名曲中の名曲が放つその魅力と薫り。改めて感心した。あなどれないぞ椿姫。
 
 もちろん彼らを感動させたのは、それだけではない。人間の声の素晴らしさ!これだよねー。マイク無しで劇場いっぱいに響き渡る生の声の威力。オペラ歌手の声は究極の楽器なのだ。そういう意味で、チヨーフィの十八番とも言えるヴィオレッタは本当に圧巻、貫禄、お見事だった。彼女の魂の歌が聴き手の心を揺さぶった。
 
 アルフレードを歌ったキム・ウーキュンも美声で十分健闘したと思う。
 ただし、私がお二人に事前に「彼はオペラ界の朝青龍と言われている」などと冗談の入れ知恵をしたのはまずかった(笑)。その後、休憩の毎に「いやー、朝青龍なかなかいいじゃん!??」「あの朝青龍さあ・・・」「あそこの場面で朝青龍が・・・」
 
 ヤメレ~~!!
朝青龍じゃないってば!! だからキム・ウーキュンだってば!!
 なんて私の必死の訂正も虚しく、彼ら二人とも結局本名を覚えないままアルフレード朝青龍として帰路に着いたのであった。
 
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  ところで、私がこのオペラを見ていつもいつも違和感を感じる、KYなお父さんジョルジョ・ジェルモンについて。
 
 「娘の結婚のために息子と別れてくれ」とヴィオレッタに迫った挙句、「お泣きなさい、お泣きなさい、何か私にできることはありませんか」とか、何も知らないアルフレードが怒って賭けに勝ったお金をヴィオレッタにぶちまけると、そこに登場して「そんな失礼なことをするとは、もはや私の息子ではない!」だとか、最後に現れて「許しておくれ、あなたを娘として抱擁するために来たのだよ」だとか、全てオマエのせいなのに、よくヌケヌケとまあ・・・開いた口が塞がらぬとはこのことではありませんか??
 
 ところが、この事に関してKくんは悟ったかのごとく語った。
「父として、家族への深い愛情に基づいた至極当然の行動。それが裏目に出てしまったことに対する葛藤と動揺、後悔と懺悔。ドラマとして、お父さんは十分に存在価値がある。むしろ、ヴィオレッタへの一途な熱だけで突っ走り、周囲に対する思慮が感じられないアルフレードの方がよっぽど変ではないか??」
 
 私は目からウロコだった。「なーるーほーどー」と思った。オペラオタクとしてかなりイッチョマエのつもりだったが、鋭い点を突かれて思わずうろたえてしまった。固定観念に縛られていない人の見方は、時に新鮮かつ斬新だ。初心忘るべからず。
 
 さてと、長くなったので、最後にカラオケ好きでもあるTくんのナイスな感想をご紹介して終りにしよう。
 
「舞台であんなに気持よく歌っている歌手を見て、オレもあそこに立って歌いたくなったね。『ちょっとオレにも歌わせろ』って感じだね。」
 
 これも、普通のオペラファンの口からは絶対に出て来ないセリフだと思うな(笑)。