クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2018/7/14 ナクソス島のアリアドネ

2018年7月14日   エクサン・プロヴァンス音楽祭   アルシュヴェシェ劇場
指揮  マルク・アルブレヒト
演出  ケイティ・ミッチェル
リーセ・ダヴィッドセン(アリアドネ)、エリック・カトラー(バッカス)、サビーヌ・ドゥヴィエル(ツェルビネッタ)、アンジェラ・ブロワー(作曲家)、ヒュー・モンターニュ・レンダル(ハレルキン)、ヨーゼフ・ヴァーグナー(音楽教師)   他
 
 
近年、エクサン・プロヴァンス音楽祭で毎年のように公演の演出を手がけ、主席演出家的存在になりつつあるK・ミッチェル。日本でも同音楽祭のプロダクション「ペレアスとメリザンド」がNHK-BSで放送されたので、その名を記憶に刻んだ人も多いだろう。
 
非常に緻密に演技を施しているな、というのが率直な印象である。
当然、現代演出。(っていうか、今の欧州の劇場(イタリアを除く)で、伝統的なオーソドックス演出は、ほとんど見かけない。日本はオペラの現代的潮流から取り残されている。)
 
目を見張る特徴があった。
アリアドネを妊娠させ、出産シーンを入れたのはなかなか衝撃的だったと思うが、アイデアの意図はよくわからなかった。もしかすると賛否分かれるかもしれない。
また、富豪の館の主とその妻(もしかしたら愛人かも?)が、完成した新作オペラとコメディの融合公演を観るために舞台に登場し、最前列に座って鑑賞しながら、時に舞台上に手を引かれて招き入られ、参加させていることも、ポイントの一つだ。
作曲家は、オペラでは指揮者となり、主賓二人の後ろに立ってタクトをとっている。
つまり、ピット内で実際の演奏を司っている本当の指揮者と、演出により舞台でタクトを振っている指揮者の二人がいる、というのがミソ。
 
この作曲家役のA・ブロワーの指揮姿が、実に本格的だった。
きちんとスコアを頭に入れた上で振っている。歌手へのキュー出しも的確だし、セリフも覚えているので(演出の要請で覚えさせられた?)、歌手と一緒に歌う口の動かしもパーフェクトだった。オペラの指揮の訓練を施されたのか。
もちろんオペラ歌手はプロの音楽家であり、学生の頃から音楽家として形成していく過程で、スコアの読解なども含め十分に勉強してきている。タクトを振れと言われれば、ある程度は出来るのだろう。
だがそれにしても、堂に入って見事だった。
 
その指揮者兼作曲家、例のツェルビネッタ一座の登場シーンでは、自分の作曲対象範囲外ということで、タクトを振るのをやめて椅子に座り、「あーあ、やれやれ、まったく・・」と憮然とした態度の演技を見せていて、思わずニヤリ。
そのくせ、ツェルビネッタの超絶アリアでは、「驚いた!参った!」とばかり、立ち上がって賞賛の拍手を贈っているというのも、実に微笑ましい。
 
以上のようにミッチェル演出、全体としては概ね気に入った。
だが、いくつかの場面で音楽の進行を妨げる演出上の横やりを入れてきているのが、少々残念だ。
ドラマトゥルク上、本来にないセリフをところどころで挿入させているが、そのセリフが音楽をかき消すようだと、聞き手は閉口してしまう。
音楽がその場面でどういう風に鳴っているのか、どのような展開をしているのか。
オペラの演出をするのなら、それだけはしっかりわきまえてほしい。
 
歌手では、新鋭S・ドゥヴィエルが注目だ。
小柄だが、声質がシャープで、かつ歌唱技術とコントロールが抜群。演技も上手い。
となれば、これはもうフランスの大歌手N・デセイを思わず彷彿とさせる。(なんとなく容姿の雰囲気も似ている。)第二のデセイなどと言われるのは本意ではないかもしれないが、それだけ大物に成長していく予感があるというものだ。
 
もう一人、アリアドネ役のL・ダヴィッドセンも挙げておこう。
ノルウェー出身の若手で、バイオグラフィによるとエクスのアカデミーによる賞を得ており、既にウィーン国立歌劇場にもこのアリアドネ役でデビュー済のようだ。非常にスケールが大きい。彼女もこれからの活躍が大いに期待されよう。
 
バッカスのカトラーは普通(笑)。最近よく聴いているが、いつもと同じ。
でも、これまで聴いた中では一番良かったかな。役には合っていたと思う。
 
指揮のアルブレヒトは、良い意味で黒子に徹していて、ひたすら音楽作りに邁進していたのが素晴らしかった。
 
全体として、とても感動したのだから、今回の公演は二重丸。
もっとも私の場合、R・シュトラウスのオペラを聴く、それだけで感動してしまうので、音楽のおかげなのか、演奏や演出のおかげなのか、はよくわからない。
いちおう演奏のおかげにしておきましょうかね。
あとは、特設会場の独特な雰囲気も。
気持ちの高揚というのは大事だからね。特にフェスティバルでは。