クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2014/11/1 マクロプロス事件

2014年11月1日  バイエルン州立歌劇場
ヤナーチェク  マクロプロス事件
指揮  トマシュ・ハヌス
演出  アルパド・シリング
ナーデャ・ミヒャエル(エミリア・マルティ)、パヴェル・チェルノフ(アルベルト・グレゴル)、ジョン・ルンドグレン(ヤロスラフ・プルス)、ディーン・パワー(ヤネク)、ライナー・ゴールドベルク(ハウク)、タラ・エラート(クリスタ)   他
 
 
 劇場の正面入口前には「お譲りします」とチケットを手に掲げている人が少なからずいた。劇場に入ると、空席がチラホラと散見された。
 もちろんガラガラというわけではない。十分には埋まっている。チラホラ程度なら特段の問題もないはずだろう。
 だが御存知か、バイエルン州立歌劇場の驚くべき集客率を。何かの記事で読んだことがあるが、確か98%くらいだったと記憶する。つまり、ほとんどの公演が常にぎゅうぎゅうの満席状態なのだ。そんな様子を見慣れていると、チラホラの空席でも「あれ?どうしたの?」となってしまう。
 それに、この「マクロプロス事件」は新演出上演、シーズンの目玉の一つのはずなのだ。
 
 思い当たる原因。
 演目自体がマイナーであること、プレミエの割には指揮者も歌手陣もビッグネームに乏しいこと、そして演出家の不評・・・。
 
 演目がマイナーであることの不利さについては、よく分からない。前日に鑑賞した「兵士たち」は演目的に決してメジャーではないのにもかかわらず、超満員で場内は熱気が立ち込めるほどであった。
 ビッグネームに乏しいというのも、まあ一理あるかもしれないが、これが主要因なのか、やっぱり私には分からない。
 
 一つだけ私が確信を持って言えるのは、演出については間違いなくマイナス方向に軸が振れる要素が潜在していたということだ。
 
 二年前に今回の演出家シリングが演出したリゴレットを観たが、醜かった。久々にハズレを掴まされた。
 幕が開くと、アッと驚くような大掛かりな装置で目を引くが、その装置が何か重要な役割りを果たしているかというとそうでもない。ところどころで思い付いたようなあざとい演技演出があるが、散発的で、結局何をやりたいのか、何を主張したいのかが全く分からなかった・・・。
 
 さて、今回。これがもう笑っちゃうくらい前回と同じ。
 幕が開くと、やっぱりアッと驚くような大掛かりな装置。舞台の中心に据えられた巨大な筒。側面には机やら椅子やらがぎっしりと敷き詰められていて、目を見張る。何かを表しているのか、象徴化しているのか、これから変化し発展していくのか・・そうした想像や推理は徒労に終わる。
 筒は回転し、場面転換の役割を果たす。ただそれだけ。
 
 このオペラを演出する上で最も重要なこと、それは「300年生き永らえることの価値、それから苦しみ」をきちんと表現することだ。それこそがこの物語の核心だからだ。さらには「時間」という目に見えないものを舞台の中で具現化できるか、ということもポイントだろう。
 だが、私はこの舞台から何も読み取れない。核心に踏み込んでいるのか、演出家にその核心が見えているのかさえも分からない。
 
 最終シーンでは、演出家なりの回答がそれなりに用意されたかに見えた。生き永らえたエミリア・マルティにはムチ打ちの刑が執行され(これだって最初はSMショーかと思った)、秘薬のレシピを受け取ったクリスタが得意絶頂に上り詰めると、そこはなぜか極北の果て。
 
あのさあ・・だからさあ・・・いったい何???
 
まあいいや。次。歌手について。
 
 前回のリゴレットでは不可解演出に歌手が足を引っ張られて無残だったが、今回は歌手が必死に踏み留まり、好演していたのは幸いだった。
 
 何と言っても主役のN・ミヒャエルが最高絶品である。
 演技ももちろん際立っていたが、歌に凄みがある。声は深くて漆塗りのように黒光りしている。声とともに口から発せられる息があたかも疾風のようにヒュッと飛んでいくような、そんな歌唱なのだ。一度聞いたら忘れられない。目にも耳にも焼き付く強烈な歌手だ。
 もしそんな彼女を見てみたいのであれば、英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演されたサロメのDVD(ブルーレイ)があるので、是非ご覧になってほしい。すごさが分かるから。上に書いたことが本当だと理解できるから。
 私はこの映像を見て以来ずっと彼女の舞台を生鑑賞したいと熱望していたので、今回は嬉しかった。ぶっちゃけ演出なんかどうでも良かったのだ。
 
 個人的に注目していた歌手がもう一人いた。
 歌手としての注目、というより、もっと下世話な興味と言うべきかも。クリスタ役のタラ・エラート。たらちゃん。
 ご存知の人もいると思うが、今年の夏のロンドンで、まことにお気の毒様とも言える批評を浴びせられたのである。
 グラインドボーン音楽祭で上演された「ばらの騎士」。たらちゃんはそこでオクタヴィアン役を務めた。プレミエの後、各新聞紙上の批評で、「容姿がオクタヴィアンに似つかわしくない」とブーイングされたのだ。
 歌じゃないんだぜ。見た目にクレームが付いたというんだぜ。ひでえよな。そりゃないよな。いくらなんでもかわいそうじゃないか。
 
で、私もその役の写真を見た。
うーん・・・まあその・・・確かにちょっといかがなものか(笑)。
 
 音楽祭側は「エラートさんは有能な歌手である」とコメントして反論しつつ、衣装、かつら、化粧についてはその後に微修正を施したとのことだ。
 
 今回のクリスタ役であるが、時代を現代に置き換えていることから衣装などもごく自然であり、見た目的に全然問題がない。少し太めだが、チャーミングである。
 
 やっぱりグラインドボーンでは、衣装、かつら、化粧が悪かったのだろう。だとすれば被害者もいいところだが、でも結果として名前が世界に周知されたのだから、良しとする?(笑)
 
 肝心の歌は・・・まあ普通でした(笑)。
 
イメージ 1