2004年6月29日 パリ・オペラ座 ガルニエ宮劇場
R・シュトラウス カプリッチョ
指揮 ギュンター・ノイホルト
演出 ロバート・カーセン
ルネ・フレミング(マドレーヌ伯爵令嬢)、ディートリッヒ・ヘンシェル(伯爵)、ライナー・トロスト(フラマン)、ジェラルド・フィンリー(オリヴィエ)、フランツ・ハヴラータ(ラ・ロシュ)、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(クレーロン) 他
劇場に到着して、当日キャストを確認したら、指揮者が変更になっていた。
当初の予定指揮者、それはクリスティアン・ティーレマンであった。
「ええーーっ!? うっそーー!? そんなぁ~!!」
と、きっと今なら猛烈にガッカリすることだろう。
ところが、ね。
この時、正直言ってそれほどガッカリはしなかった。
もちろん、どんな時でも、予定されていた指揮者やキャストがドタキャンで落っこち、変更になるのは気分が悪い。
でも、正直に言うが、この頃、私はティーレマンのことを、今ほどには信用していなかったのだ。
注目すべき指揮者ではあった。
前年の2003年にはウィーン・フィルと来日公演を果たしていたし、2004年の秋シーズンからは、ミュンヘン・フィルの音楽監督に就任することも決まっていた。
だけどね。
ティーレマンは1998年のベルリン・ドイツ・オペラ来日公演での「さまよえるオランダ人」演奏で、多くの評論家やワグネリアンから「バツ」印を押されていた。日本ではイマイチ評価が定まっていなかったのだ。
ということで、この日の指揮者がノイホルトに変更になっても、私は「ふーん・・そうなんだ」と淡々と受け入れた。
後になって、ティーレマンはこの時、演出家R・カーセンと衝突を起こし、その結果のキャンセルだった、ということを知った。
なんだかなぁ、と思う。
「真のプロ」とはいったい何なのだろうか?
自身の芸術上の信念と水準に決して妥協せず、それが叶わないのならキャンセルも厭わない、という強い姿勢。
上演の実現のために、楽しみにしているファンのために、色々とあるにせよ、とにかく契約はまっとうする、という姿勢。
いったいどっちが正なのだろう。どっちが真のプロと呼べるのだろう・・・。
私には分からない・・。
本公演は素晴らしかった。感動した。出演キャストは、皆ネームバリューのある一流歌手たち。豪華な歌手たちの競演と言ってよかった。
シュトラウスが大好きな私だが、カプリッチョを生鑑賞したのは本公演が初めてだった、というのも大きかったと思う。
ティーレマンのキャンセルのきっかけとなったカーセン演出だが、別に悪いとは思わなかった。音楽を踏みにじるような的外れ現代演出でもなかったし、むしろオーソドックスで美しい舞台だった。
ティーレマンが決して譲れなかった芸術上の生命線は、この舞台のいったいどこにあったのだろうか。謎である。
(※ ちなみに、このプロダクションは映像収録され、DVDにもなった。映像での指揮を務めているのはノイホルトではなく、ウルフ・シルマー。公演シリーズの前半をノイホルトが振り、後半をシルマーが振るという分担だった。)