2013年12月29日 ネザーランドオペラ アムステルダム
プロコフィエフ 賭博者
指揮 マルク・アルブレヒト
演出 アンドレア・ブレート
パヴロ・フンカ(将軍)、サラ・ヤクビアク(ポリーナ)、ジョン・ダスザック(アレクセイ)、レナーテ・ベーレ(お婆様)、ゴードン・ギーツ(公爵)、カイ・リューテル(ブランシュ) 他
かねてより「是非鑑賞したい」と思っていた作品。ようやくそのチャンスが訪れ、非常に楽しみにしていた公演だ。
こうしたプロコのオペラ作品、果たして残りの人生であとどれくらい見られるというのだろう。少なくとも日本で待っている限り、ほぼ絶望的である。5年前にゲルギエフがロンドン交響楽団との来日公演で披露した交響曲全曲チクルスなんか、壊滅的にお客さんが入っていなかったもんなあ。
プロコフィエフはマニアックであって、一般愛好家には人気がないのだろうか??
アムステルダムではどうなっているのだろう?
はたしてお客さんが入るのか?
そして、来場したお客さんの支持を得られるのか?
・・・驚いた。
この日、客席を見渡した限り、ほぼ満員であった。
指揮者だってキャストだって、国際級のスターが出演しているわけでもないのに。
公演日が休日だったからという要素も多少はあるかもしれないが、それにしてもこの作品の上演でこれだけお客さんが集まるのはすごいとしか言いようがない。
さて、本公演の感想であるが、待ちに待った体験ということで、この作品を鑑賞できた喜び、音楽を聴けた喜びは非常に大きかった。音楽そのものに心を大きく揺さぶられた。プロコ独特の響き、音と音を衝突させてそこから発生するエネルギーを放射させるかのようなサウンドに何度もゾクゾクした。その点において、素晴らしい音楽を聴かせてくれた指揮者マルク・アルブレヒトには高い評価を与えたい。
一方で、出演した歌手、それから演出については、決して大満足とはいかなかった。
歌手に関しては、単純に小粒。別に国際級のビッグスターがいなかったからとか、そうした名前や見た目の華やかさの問題ではない。歌手の歌が音楽に匹敵していなかった。「いいな」と思ったのはアレクセイを歌ったジョン・ダスザックくらい。これでは寂しい。
演出もしかり。
回り舞台や鏡を使ったりして、舞台空間には工夫を凝らしていたが、最も肝心の「人間の描写」が物足りない。
この物語に登場する役は、皆何らかの曰く付き人物であって、心の中に企みがあり、屈折し、歪んでいる。だからこそギャンブラーなわけで、そうした狂気の世界をもっとグロテスクに描いて欲しかった。ちょっとお上品だったかな、という印象だ。
終演後のお客さんの反応は上々だった。あちこちでスタンディングオベーション。皆、上演を心から楽しんだ様子が伺えた。
このオペラははっきり言って上級者向けで難しいと思う。ストーリーは別として、音楽的には一回聴いただけでは、とてもじゃないけど掴めないはず。にも関わらず、この反応。
要するに、オランダ国民がいかに芸術を大切にし、愛しているか、ということなのだろう。
プロコフィエフが人気を得ているからとか、珍しい作品だから大きな関心を呼んだとか、そういうことではなく、単純にネザーランドオペラという劇場が一定の支持を得ていて、劇場に足を運ぶ、オペラを鑑賞する、という行為が日常に根付いている証拠なのである。
午後4時15分終演。ホテルに預けていた荷物をピックアップしてそのまま真っすぐ駅に向かい、午後5時18分発の国際超特急タリスに乗ってパリへ。アムスの滞在はほとんどオペラだけで、風のごとくおさらばでした。