クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2018/5/2 グレの歌

2018年5月2日  オランダ国立オペラ
指揮  マルク・アルブレヒト
管弦楽  ネザーランド・フィルハーモニックオーケストラ
演出  ピエール・オーディ
ブルクハルト・フリッツ(ヴァルデマール王)、キャサリン・ネーグルシュタッド(トーヴェ)、アンナ・ラルソン(山鳩)、マルクス・マルクワルト(農夫)、ヴォルフガング・アプリンガー・シュペルハッケ(道化師クラウス)、ズニー・メレス(語り部
 
 
コンサート形式(カンタータ形式)で演奏されることが多いグレの歌。オランダ国立オペラが2年前に本格舞台上演した新演出は話題を呼び、その情報は私の耳にも入って来た。ライブ収録され、DVDやブルーレイで発売されている。今回はその再演である。
 
演出が付いたことで、女性のナレーター役を物語の水先案内人に仕立て、存在感を際立たせるなど、劇的要素の拡大化を目論んだことは間違いない。
だからといって、これが正々堂々オペラかと言われると、やはりそうでもないような気がする。
視覚効果は間違いなくある。
だが、全体的には大きく何かが変わるわけではない。演出は何かを主張するのではなく、あくまでも形づくり。そういう意味では、コンサート形式上演の延長線上に敷かれた舞台と言っていいかもしれない。
 
もっと言ってしまうと、ソロ歌手たちも同様で、舞台上のパフォーマンスの実権を握るということほどのものでもなかった。(重要なヴァルデマール王役のB・フリッツが少し弱かったせいもあった。)
 
やはり、オペラ上演形式でも、コンサート上演形式でも、この作品を演奏するにあたり、一番の主役、成否のカギを握るのは、オーケストラなのだと思う。上演中、何かが起こるのは、常にピットの中だ。
 
アルブレヒトのタクトの切れ味が実に鋭い。まるで獲物に襲いかかる獰猛なライオンのようだ。
確かにこれくらい鋭くタクトを振らないと、しっかり鳴らないような気がする。シェーンベルクのこの作品は、まるで巨大な建造物のようで、軽く叩く程度ではびくともしない。大きく、力強く、ダイナミックに作品を扱う。幸いなことにピットの中なので、歌手の声をかき消してしまう心配もない。
 
単に大きく鳴らすだけでなく、楽器パート間のバランス調整には万全を尽くしているので、響きが多層的だし、ステレオフォニック。それによって眩いほどの色彩感が生まれ、光沢を放っている。
アルブレヒト、この作品をどのように扱ったらしっかりと音楽になるのか、作品の魅力を最大限に引き出せるのか、熟知している感じだ。その功績は非常に大きい。
 
普通にコンサート形式上演でも良かったのではないか、という意見も出てくるかもしれないが、舞台版の意義は十分に見出さされた。
それは、演出は、音楽が持つ表現力を後押しし、底上げし、手助けする役目を担う、ということだ。
御存知のとおり、現代ではこれが軽視され、いつの間にか逆転現象が起こっている。
 
純然たるオペラとは言い難い「グレの歌」を聴いて、改めて音楽と演出の相関関係について、考えさせられた一夜だった。