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2013/6/13 ヴェンゲーロフ・フェスティバル

2013年6月13日  ヴェンゲーロフ・フェスティバル    サントリーホール
指揮  マキシム・ヴェンゲーロフ、ヴァグ・パピアン(チャイコフスキー
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)、山根一仁(ヴァイオリン)
バッハ  2つのヴァイオリンのための協奏曲
チャイコフスキー  ヴァイオリン協奏曲
リムスキー・コルサコフ  交響組曲シェヘラザード
 
 
 1月に台北ヴェンゲーロフの鮮烈なチャイ・コンを聴き、完全復活を目の当たりにしていたので、今回のフェスティバルに駆けつけることに関しては躊躇がなかった。問題はブラームス・プロ、リサイタル、そして弾き振り公演のどれに行くか。またもやチャイ・コンであるにも関わらずこのプログラムを選択したのは、ヴェンゲーロフがソロを務めるシェヘラザードに大いに興味が沸いたから。
 
 シェヘラザードは10代の頃に夢中になって聴いていた思い入れのある曲。当時、色々な録音を聞きながら、「この曲の演奏にもし世界的なヴァイオリニストのソロが加わったら、どんなにゴージャスだろう!?」と思い巡らせていた。今回の公演は、その長年の夢想が実現するというわけだ。
 
 一方で、疑念がないわけでもない。要するに「邪道ではないか」ということ。「シェヘラザードのヴァイオリンソロを世界的奏者が務めたらさぞかしゴージャスだ」とは思うが、だからといって「弾き振りまでする必要はないんじゃないのぉ~?」ってことね(笑)。ま、そこらへんは行って聴いて確かめてみよう。
 
 まず一曲目のバッハであるが、残念ながら何の感興も沸かなかった。よってコメント無し(笑)。
 
 次にチャイ・コン。当初はこの曲についても弾き振りとされていたが、さすがにソロに専念するため、指揮を専門家に任せた。まったくもって賢明な判断である。
 それにしてもヴェンゲーロフのチャイ・コンは「完璧」だ。推測だが、最も得意な曲、そして彼の豊富なキャリアの中で一番演奏しているコンチェルトではないだろうか。それくらい完全に出来上がっており、身体に染み付いている。私自身は1月に聞いているので新たな驚きはなかったが、今回初めてヴェンゲーロフを生で聞いたという御方、あるいは実際にヴァイオリンを演奏する愛好家(専門に勉強している学生さんを含む)はさぞかし目を丸くしたに違いない。そう言えば、この日はヴァイオリンケースを抱えた学生らしいお客さんが多数いた。(なんでわざわざヴァイオリンを持参して会場に来るんだろ?(笑))
 
 さて、いよいよヴェンゲーロフが弾き振りするシェヘラザード。
 ヴェンゲーロフはこの曲を十分に習熟しているらしく、暗譜。指揮台の横にヴァイオリンを置く台が設置され、ソロの部分になると楽器を構え、客席の方を振り向き、そしてソロを弾き、演奏し終わると再びオーケストラの方に向き直しながら楽器を台に置いて指揮をする、という、まあたいそうご苦労な指揮ぶりであった。
 予想していたとおり、ヴェンゲーロフによるヴァイオリンソロはキラキラと輝かしい。この曲のヴァイオリンソロは、シェヘラザードが千夜一夜物語を王に話し聞かせるテーマ旋律とされ、それ故、女性的に優しく語りかけるように演奏されることも多いのだが、ヴェンゲーロフは「そんなこたぁ知ったこっちゃない」のごとくソリスティックである(笑)。
 でも、とにかく上手い。こっちだってそうしたゴージャスさを期待していたのだから、まあそれでいいだろう。
 
 ヴェンゲーロフの指揮は、本格的かどうかは分からないが、少なくとも十分に訓練されているものである。演奏活動中断を余儀なくされた最中に指揮法を学び、プロフィールによれば、一流オーケストラへの客演も果たしている。決してお遊びでも邪道でもなく、真剣な音楽アプローチがあったと思う。
 ただ、やはり指揮とヴァイオリン演奏の切り替えの瞬間に、音の処理が甘くなってしまうのは、これはもうどうしようもない。仕方がないだろう。
 
 東京フィルは、一部のソロ奏者に「おっとっと・・」な部分が見られたが、よくヴェンゲーロフに献身的に尽くしていた。ちゃんと音楽の体を成していた影の立役者はコンマスの荒井さんかもしれない。コンマスでありながらシェヘラザードでソロを弾かず、指揮者がそれを弾いているのを眺める気分は、果たしていかばかりであったであろうか(笑)。