指揮 オスモ・ヴァンスカ
マキシム・ヴェンゲーロフ(ヴァイオリン)
チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲
世界のトップ5に入ろうかというスーパー・ヴィルティオーゾ軍団である。ライナー、ショルティ、バレンボイムら錚々たる指揮者が系譜を継ぎ、現在は皇帝ムーティが君臨する超名門オーケストラである。たとえ、お目当ての音楽監督がタクトを振らなくても、ゴージャスで官能の極地たる演奏になるのは間違いない--はずなのである。
なのに、このグダグダ感、‘どうでもいい’感はいったい何なんだ!?
今回のタイペイ遠征、完全に観光旅行と化しているではないか!?
なあ頼むよ、シカゴ響。ビシっと締めてくれよ。観光疲れであくびしそうなこのオレの横っ面をひっぱたいてくれよ。かつてショルティとの来日公演で聞いたベト5運命と展覧会の絵は、体重250キロの小錦(古い!)に突き押しされたかと思ったくらいの衝撃だったぞ。
ステージに颯爽と(?)ヴァンスカが登場した。ちょっと足取り軽いなあ。威厳がイマイチないなあ。
一曲目、シチリア島の晩鐘序曲。
盛り上がらん。なんじゃ、この腑抜けた演奏は。これ、本当にヴェルディの曲なのか?こんな演奏をもしミラノでやったら、天井桟敷から物が飛んでくるぞ。あ~あ、ムーティだったら、ムーティだったら・・・。くそー。
二曲目、チャイコのVn協。
ステージに颯爽と(?)ヴェンゲーロフが登場した。久しぶりに見たが、なんかオッサンぽくなっちゃったなあ。
しかーし。彼のソロが始まった途端、会場の空気が一変した。会場の温度が上昇した。瞬く間に、天才ヴァイオリニストの超絶技巧に聴衆が釘付けになった。
若い頃のようなオーバーアクションは影を潜めた。だが、火花散るような演奏は、私が知っているヴェンゲーロフそのものだ。華麗なテクニック、正確無比な音程、大胆なボウイング、まるでオイストラフを彷彿させるスケールの大きさ。完全復活は本当だった。真実だった。
三曲目、ベト3エロイカ。
演奏側からすれば、コンチェルトはコンチェルト、メインはメインかもしれない。メインの演奏が良かったのは、その前のコンチェルトでゲストのソリストが盛り上げたから、などと言われるのはトップオーケストラのプライドからして、心外で聞き捨てならないだろう。
指揮者のヴァンスカのタクトも、エロイカでは冴えを見せた。彼の指揮は決してエレガントではない。だが、ベートーヴェンに真正面から取り組み、自らの解釈を少しでも演奏に反映させようとする姿勢がみなぎっていた。
素晴らしい演奏の立役者がもう一つ存在した。何だと思う?
作品である。
ベートーヴェンの音楽が、聴衆の心を揺さぶったのである。アメリカのオーケストラ、フィンランドの指揮者、アジアの聴衆。どこであろうと、誰であろうと、音楽が全てを束ね、一つにする。ベートーヴェンの偉大さを改めて思い知ったタイペイの夜であった。
最後にホールと聴衆について。
よく響くが、クリアとは言い難く、オーケストラの各パート間で干渉し、消し合ってしまう傾向があって、特に弦楽器群の細かいパッセージが聞き取りにくかった。アコースティック上の欠点だと思う。なんとなく、オーチャードホールみたいな印象を受けた。
聴衆のレベルは普通。指揮者が変更になっても、集った観客はそれなりに楽しんでいる様子だった。ヴェンゲーロフがコンチェルトを弾いた後、アンコールを弾く前に一言「謝謝(シェ・シェ)!」と挨拶したら、会場がウケてドッと湧いたのが面白かった。