指揮 ペーター・シュナイダー
演出 ジャン・ピエール・ポネル
カルロス・アルヴァレス(アルマヴィーヴァ伯爵)、バルバラ・フリットリ(伯爵夫人)、シルヴィア・シュヴァルツ(スザンナ)、エルウィン・シュロット(フィガロ)、マルガリータ・グリシュコヴァ(ケルビーノ) 他
なんという演奏であろうか!!
私は、これまでずっと自分のことを、「演奏について、それなりの評価ができる人間」と思っていたのだが、この夏ペーザロでぶっ飛び公演に出くわすと、いとも簡単にぶっ壊れ、狼狽し、何も考えられなくなってしまった自分に気が付き、とても驚いた。
なのに、上の感想だ。この程度しか頭に思い浮かばないのだ。慎重に気の利いた形容詞を探し、「筆舌に尽くし難いほどの高貴な調べ」だとか「典雅の香りに満ちた」だとか、そんな言葉遊びは要らない。もう一言でいいのだ。
「う・ま・いっっ!!」
文句あっか。 以上。
・・・・と、これで感想記事を終わらせても良かったのだが、やっぱりもうちょっと書くね(笑)。
歌手の中で一番良かったと感じたのは、カルロス・アルヴァレス。格調高さとコミカルさの両方を兼ね備え、圧巻貫禄のアルマヴィーヴァ伯爵だった。
対照的に、イマイチと感じたのはエルウィン・シュロット(私は『アーウィン』とは呼びません)。いかにもやっつけ仕事で本番に間に合わせたという感じ。実際の程は定かではないが、少なくともそんな印象を抱かせる歌いっぷりだった。
スザンナのシルヴィア・シュヴァルツについて、今年5月、フィレンツェでばらの騎士のゾフィー役を聞いたのだが、印象が全然違った。ゾフィーでは芯が通った大人の女性らしさを滲ませていたが、今回のスザンナでは若々しさに満ち溢れ、とてもチャーミングだった。もちろん音楽も役も違うので当然かもしれないが、引き出しを持っていて、しっかり使い分けできる器用な歌手と見た。
指揮のペーター・シュナイダーは、本当にさすがとしか言いようがない。
つい先ほど私の師匠Kさんとメールでやりとりをしたのだが、ドイツ物のオペラで、シュナイダーの後継となるような、何でも振れてしかもどれも安心して聞くことができるオペラの叩き上げ指揮者が果たしてどれほどいるのだろうか? 今は彼がいるからいいものの、将来がちょっと不安である。
最後に演出について。
今回の来日公演概要が発表になり、古臭いポネル演出のフィガロ(しかも、以前にも日本に持って来たプロダクション)と聞いて、私は非常にがっかりし、以前のブログ記事で「コケにされているとしか思えない」と書いた。実に能がないと思った。
だが、こうして実際に鑑賞してみると、演出について何の不満も感じなかった。それどころか、これほど音楽を惹き立てるのに都合がいい演出はないのではないかとさえ思えるくらいだった。
「音楽を聴かせるための演出」
もし、主催者(あるいは劇場側)がそこまで周到に考え抜いた上で、既に現地ウィーンでは演出が改定されているにも関わらず、あえてこの旧バージョンを持って来たのだとしたら、私としては何も反論できない。
だって、さ、ほら、読んだだろ、上の感想だよ。大成功じゃないか!
もっとも、本当にそこまで周到に考え抜いたかどうかは分からないけどね。でも、そういうことにしておきましょうかね。