指揮 イシュトヴァン・デーネシュ
まあ正直言って、こういう客寄せパンダ歌手を目玉にして誘き出そうとする東欧系歌劇場の出稼ぎ公演に行くのはいかがなものかと思う。これが「なるほど、それやるか」と唸るような演目を用意してくれるのならいい。でもこういう公演って、ほぼ間違いなく「またそれかよ」といった演目ばかり。まったくバカじゃないかとさえ思うが、じゃあ我々マニアが喜ぶような演目を持ってきたとして、そしたら会場に閑古鳥が鳴いてしまうというのならば、確かに仕方がない面もある。受け入れ側の日本のオペラ文化成熟度にも大いに問題があるわけだ。
結局なんだかんだ言ってもこうやって私も出掛けてしまったのだから、まんまと戦略にはまってしまったわけである。
実際に鑑賞して、それなりに楽しめたのは事実。
これは作品そのものの面白さと、やっぱりさすがの客寄せパンダ歌手(ちょっと言い方が失礼ですかね(笑))と、国際的には無名だけどその他キャストたちのなかなかの健闘が、公演の水準をしっかりと保ってくれたおかげだ。
バルチェッローナについては、上記のとおり「さすが」ということで、それ以上でもそれ以下でもなし。アルマヴィーヴァのメジェシは、とても好感を持った。この役を歌う十分の資質を兼ね備えている。バルトロのベンツィ、ドン・バジリオのガーボルも、歌唱の不満はない。ただ演技は少々固かった。フィガロのホは逆に演技は堂々としていたが、歌唱にもう一歩の懐の大きさが欲しい。
指揮のデーネシュは、ちょっと評価が難しい。上手に音楽をくすぐっている所もあれば、やや一本調子の所もあった。タクトのドライブは快調だった。
問題は、指揮者自身によるレチタティーヴォの弾き振り伴奏だ。電子ピアノを使用したことで、聴き手の許容が分かれるだろう。音色がいかにも電気的で、違和感が相当大きい。イコライザーで音色を使い分けているので、確信犯だ。
しかも、レチタティーヴォの音楽そのものも好き勝手に編曲してしまい、やりたい放題。なんか遊んでいる感じで、私はやり過ぎだと感じた。あれは演奏者の解釈の範囲内ということでオッケーなのか?
演出については、まあよろしいんじゃないですか(笑)。お客さんは結構ウケてたからね。