2012年10月22日 シュターツカペレ・ドレスデン(NHK音楽祭) NHKホール
唯我独尊ティーレマン。
特にブラ1は、まるで宇宙人の演奏。聴衆が呆気にとられても、彼の演奏スタイルはいささかも揺るがない。確固たる信念。ひたすら我が道を行き、敵をなぎ倒していく。そう、ティーレマンこそ恐れを知らぬ英雄ジークフリート。向かうところ敵なしの様相である。
超個性的なブラ1は、2003年のウィーン・フィルとの来日公演でも演奏されている。私はそのプログラムに行かなかったが(メインが「英雄の生涯」の公演を鑑賞)、当時、一癖も二癖もある演奏を酷評したファンは多かった。まるで人を喰ったようなテンポ、アクセント、ルバート、パウゼに「こんなのブラームスじゃない」と拒絶反応を起こしたのだと思う。
今回の演奏も、解釈的にはそれほど変わっていないはずだ。それ故、再び賛否両論が巻き起こってもおかしくなかった。だが、以外にも観客の反応は上々。いや、上々どころか多くの人が熱狂し、興奮気味に拍手を送っていた。
明らかに聞き手側に変化が現れている。間違いない。
聴衆は気が付き始めたのだ。分かってきたのだ。ティーレマンが、単なる小手先のウケ狙いではなく、大きな流れの中でいかに音楽のツボを押さえるかに心を注いでいることを。あるいは、ティーレマンの音楽は千変万化する人間の感情表現そのものなのだということを。
でも、「それならば」と最後の切り札として用意されたアンコール、史上最強(!)の「リエンツィ序曲」を聞かされたその日にゃあ、うるさ型連中も沈黙せざるを得ない。勝負あった。
諦めろ。もはや我々はティーレマンの軍門に下るしかないのだ。
ドレスデン・シュターツカペレは、期待どおり驚異的なアンサンブルを披露。指揮者との相性は抜群。ティーレマンが腕をブンブン振れば、その腕に噛み付く勢いで前のめりに音が迫ってくるし、さっと手をかざして抑制すると、一瞬にして潮が引く。指揮者の手のひらの返し一つで、いかようにも音色や抑揚を変化させられる高度なソロ技術と合奏能力は舌を巻くばかりだった。