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2012/9/23 読響

2012年9月23日  読売日本交響楽団名曲シリーズ  サントリーホール
リチャード・ストルツマン(クラリネット
ウェーバー  魔弾の射手序曲
スクロヴァチェフスキ  クラリネット協奏曲
ワーグナー(デ・フリーヘル編曲)  楽劇トリスタンとイゾルデ 管弦楽
 
 
 インバルの公演の感想記事で、「76歳という年齢にもかかわらず、ますます盛ん」と書いたが、もっとすごい指揮者がここにいる。御存知‘ミスターS’スクロヴァさんこと、スクロヴァチェフスキだ。
 88歳だってよ。いやはや恐れ入った。もはやひれ伏すしかありません。まるで仏様。そういえば、後光が差している(笑)。
 
 そのスクロヴァさんが作曲したクラリネット協奏曲。ソリストは、マルチプレイヤーとして有名なストルツマン。初めて見たが、ステージマナーが結構お茶目。
 
 ただねえ・・・いかんせん曲が・・・(苦笑)。
 私はお化けが怖い。だからお化け屋敷のBGMである現代音楽は怖くて仕方がない。怖いので目をつぶる。瞑想するふりをしてお化けが通りすぎるのをじっと待つ。「これに耐えたら、次のワーグナーの音楽は天国だぞ」と言い聞かせながら。スクロヴァさん、ごめんなさい。
 
 メインは楽劇トリスタンとイゾルデを約60分に圧縮した管弦楽バージョン。
 言うまでもなくトリスタンはオペラ史に燦然と輝く名作であり、これを「歌なし」で、更に縮小版(ハイライト)にしたら、一気に魅力減になってしまうのではないかという危惧があった。
 
 だが、結果は「悪くない。なかなか良かった。」
 まず、上手くコンパクト化したと思う。第一幕は前奏曲の後はバッサリと切り落とす一方で、最も濃厚な第二幕の愛の交歓の音楽は可能な限り残している。編曲者は実に賢明である。
 
 スクロヴァ先生の演奏は、ひたすらスコアを冷徹に見つめ、オペラというより、ワーグナー管弦楽法の奥義に迫ったものである。情緒的でロマンチックな陶酔に浸る素振りは微塵もなし。一貫して気にかけているのが各楽器間のバランス。真剣なアプローチのおかげで単なるダイジェストに陥らず、「なんちゃってトリスタン」にもならず、一つの管弦楽曲作品として上等の成果を上げた。上記のとおり「悪くない」という印象を持ったのは、編曲と演奏の両方が功を奏した結果だ。
 
 読響はこの日も力演。特にコールアングレ奏者は、長いソロをしっとりと美しく聞かせて、聴衆を唸らせた。間違いなくこの日一番の活躍であり、ヒロイン。
 カーテンコールでは真っ先に起立させてあげていいのに、スクロヴァ先生ったら、何人かの奏者やパートを先に立たせて、その後にようやく彼女を起立させた。その際に起きた観客からの三割増しの拍手で、スクロヴァさんもようやく「そうだった、そうだった、すまん、すまん」と慌てて彼女の元に向かい、手を取って祝福していた。
 
 微笑ましい光景だったが、私はスクロヴァらしいと思った。要するに、上にも書いたとおり、タクトを振りながら心地よいソロのメロディに身を委ねるのではなく、その間もスコアと全体のバランスに全神経を集中させていたに違いない。むしろ「さすが、スクロヴァチェフスキ」と言っていいだろう。
 
 それにしても読響は今月、大曲が続いた。マーラー復活に始まり、二期会パルジファル、そしてこの日の難解な現代曲に、トリスタンだ。特にパルジファルは本公演だけでも5日間で4回、通し稽古のゲネプロも含めればもっとだろうから、驚異的なスケジュールだったと言える。
 でも、読響奏者の中にもきっとワグネリアンがいるに違いない。そういう人たちにとっては、オケ奏者人生の中でもかなり楽しく濃密な時間だっただろうね。反対に、ワーグナー嫌いの人はご愁傷様(笑)。