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2012/4/20 都響

2012年4月20日  東京都交響楽団定期演奏会  東京文化会館
辻井伸行(ピアノ)
ショパン  ピアノ協奏曲第1番
 
 
 話題のピアニストが登場するということで、会場は熱気に包まれていた。チケットは完売。なんと、応援隊がバスで駆けつけていたらしい。
 
 その辻井くんであるが。
 彼が視覚障害という大きなハンディを克服して世界的なコンクールを制覇したなどという感動物語は、私にとってはどうでもいいこと。彼が正真正銘のプロであるならば、純粋に、この日披露された技術と音楽性だけで評価されるべきだし、彼自身だってそれを望むだろう。
 
 ということで、はっきり言う。まだまだ修行が足りない。
 
 起伏がなく濃淡がなく陰影がないショパン。作曲家あるいは作品との語らいが感じられないし、オーケストラと息を合わせることも感じられない。指揮者と解釈をぶつけあいつつ、共同作業で作品を仕上げていく過程も見当たらない。この公演に向けて黙々と‘演奏の練習’をしてきて、ただそれが披露されただけに思えた。演奏を通じて、作品に対して何を考え、何を訴えたいのかをもっと表出してほしいと思う。今後、更なる研鑚を望みたい。
 
 そんな辻井くんは、自分の出番であるコンチェルトが終了したら、控え室でファンや取り巻き連中からの慰労に応え、サインなどのサービスをして、そのまま「終わり」だったのであろうか。
 
 もしそうだとしたら、惜しいことをした。作品に対するアプローチや表現方法を学び、一層の飛躍を目指したいのだったら、すぐそこに先生がいたのだ。休憩後に客席に移って、インバルのショスタコを聴けばよかったのである。
 
 都響の演奏を聞いて、インバルのこの曲に対する並々ならぬ思い入れや意気込み、解釈に対する絶対的な自信が強烈に感じられた。そのオーラは半端ではない。あたかも鉛のような音。インバルの凄みの効いた魂の音だ。あの音は、リハや練習の段階から厳しく突き詰めていかないと絶対に鳴らせない。
 
 インバルは、都響はもちろん、フランクフルト放響でも、ウィーン響でも、チェコフィルでも、個性があって独自のスタイルと響きを持つオーケストラの音を、一瞬にして「インバルの音」に変えてしまう。こんな凄腕指揮者が都響の首席指揮者(プリンシパルコンダクター)なのだ。
 
 一時期、都響は行革の逆風にさらされて経営の危機に瀕し、演奏の質を落としかけたこともあったが、今、インバルを迎えて、音楽的に最盛期、絶頂期を迎えているのではないだろうか。私はそう思う。この幸せな時代がもうしばらく続くことを願わずにはいられない。