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2011/12/4 N響A定期

2011年12月4日  NHK交響楽団定期演奏会  NHKホール
合唱  東京混声合唱団、NHK児童合唱団
エリン・ウォール(ソプラノ)、中嶋彰子(ソプラノ)、天羽明惠(ソプラノ)、イヴォンヌ・ナエフ(アルト)、スザンネ・シェーファー(アルト)、ジョン・ヴィーラーズ(テノール)、青山貢(バリトン)、ジョナサン・レマル(バス)
 
マーラー  交響曲第8番千人の交響曲
 
 
 デュトワの‘業(わざ)’を見た。それは「さすがデュトワ」と言えるプロの業だった。
 
 マーラー8番はご存知のとおり数百人がステージ上にところ狭しと並び、更にはオルガンや、バンダと呼ばれる金管の別働隊もいて、その演奏規模は空前のスケールである。マーラー自身が語ったように、「宇宙よ、鳴り響け」とばかりに巨大さにモノを言わせて壮大な音響を轟かすことも可能であろう。実際、マーラー指揮者として定評のあるインバルなどは、スコアにあるマーラーの音楽そのものの威力をストレートに表出し、オーケストラに対してもマックスの出力を要求して、圧倒的な高揚を創りだす。
 
 だが、デュトワは違った。攻め方は正反対と言っていい。
 デュトワのアプローチ、それは徹底したバランス管理である。曲の巨大さに決して振り回されることなく、室内楽的とも言えるバランス修正を図って、精緻でクリアな音を引き出そうとする。あれだけの楽器、合唱が居並んでいるのだ。闇雲にタクトを振れば、収拾がつかなくなるのは自明の理。ある音はかき消されて埋没し、ある音は四方八方に飛び散って、やがてドライなNHKホールの餌食となって空間に吸い込まれ、消えていく。悪名名高いこのホールでは、イヤでもこうした地道な音響構築が不可欠だ。
 楽器間のバランス、合唱とオケのバランス、オルガンとのバランス、ソリストの位置、バンダの位置・・・リハーサルはさぞや試行錯誤の連続だったことだろう。
 
 もっとも、こうした綿密な音楽作りは、実はデュトワの最も得意とするところ。彼は「これぞマーラー」というありがちな解釈の亜流に組みせず、あくまでも‘デュトワ流’でこの大曲に挑んだのだ。
 その結果、巨大な音響に包まれるような威圧感は影を潜めた一方、複雑なポリフォニーの中から各楽器の旋律がいたるところで浮かび上がった。これこそがデュトワの業であった。
 
 
 ところで、第一部(前半)の終盤、第一ソプラノが突然譜面台に伏せるかのように寄りかかった。どうやら体調急変が彼女を襲ったらしい。気合を入れすぎて歌った結果、軽い酸欠状態にでもなったのだろうか。隣にいた第二ソプラノの中嶋さんが異変に気づき、心配して何度も「大丈夫?」と声をかけていた。幸い第二部の前半はしばらく歌う場面がなく休みが続いたため、この時間を利用して回復に努め、無事に乗り切ったようであったが、見ていてこっちもハラハラドキドキした。生公演は本当に何が起こるか分からない。