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2014/3/9 都響

2014年3月9日   東京都交響楽団   横浜みなとみらいホール
合唱  晋友会合唱団、東京少年少女合唱隊
澤畑恵美(ソプラノ)、大隅智佳子(ソプラノ)、森麻季(ソプラノ)、竹本節子(メゾソプラノ)、中島郁子(メゾソプラノ)、福井敬(テノール)、河野克典(バリトン)、久保和範(バス)
マーラー  交響曲第8番 千人の交響曲
 
 
 プリンシパルコンダクターを務め4月から桂冠指揮者に就任することが決まっているインバルと都響が培ってきたコラボレーションの集大成、総決算の演奏だった。
 それは同時に、日本におけるマーラー演奏史に刻まれるべき最高の結晶であった。都響はここに「世界最高のマーラー指揮者」を得て、ついに金字塔を打ち立てるに至った。前日の池袋とこの日の横浜に集った聴衆は、記念碑的演奏の立会人になったというわけだ。
 
 壮大な曲であるがゆえに、高揚感をひたすら煽る豪快かつ大胆な演奏、ややもすれば誇張的な演奏というイメージがつきまとうが、意外にも聴いていて浮かび上がるのは、作曲家や作品への強い共感、そして細部にまで渡る綿密なアプローチである。
 もちろんフィナーレのように、圧倒的なスケール感で劇性を極限まで高めた部分もある。しかしこの8番には、神秘的で慈愛に満ちたピアニシモの演奏が続く時間もかなり多い。そうした優しく美しい部分にこそ、インバルは精一杯の感情表現を込めている。
 
 鍵となっているのは、テキストだ。
 第一部と第二部とで原典が異なるものの、創造主への礼賛や神への憧憬、魂の昇天など、心の安らぎを求めた祈りの曲という側面も併せ持つ。そこにインバルはスポットを当てているような気がする。
 この曲を聴いて我々が揺さぶられるのは、大音響に包まれるからではない。音楽を聴きながら天からの啓示を受け、自らの心が浄化されるのを実感することができるからだ。そうした奇跡を与えてくれる指揮者こそがインバルというわけである。
 
 今はまだ想像さえも出来ないが、もしインバルという指揮者がいなくなってしまったら、いったい我々はどうしたらいいのだろう。マーラー演奏において、いったい誰にすがったらいいのだろう。
 
 一般的に言うならば、インバルがカラヤンバーンスタイントスカニーニフルトヴェングラーといった神々の巨匠たちと肩を並べることはないかもしれない。
 だが、私はマーラーを愛聴する限り、インバルの偉大さを決して忘れないだろう。マーラーの名前とともに、数々の都響との名演の記録とともに、その名は私の心の中に永遠に刻まれるに違いない。