2017年9月15日 東京フィルハーモニー交響楽団 サントリーホール
指揮 チョン・ミョンフン
合唱 新国立劇場合唱団
安井陽子(ソプラノ)、山下牧子(メゾ・ソプラノ)
改修工事後、初めて訪れたサントリーホール。リニューアルしてそのものズバリ「復活」。それじゃあ盛大に派手に鳴らして祝ってもらいましょう・・と思いきや、チョン・ミョンフンの復活、内向的で思索的な音楽作り。彼らしいこだわりを随所に見せつけていた。
もちろん最終楽章のクライマックスは圧倒的な構築だ。
でもね、この曲は誰が振っても、あのクライマックスは訪れる。揺さぶられるような高揚は、マーラー様が作った作品の賜物。華麗なる音響のカタルシスに包まれて「感動した!名演だ!」と語るのは、ちょっとチョン・ミョンフンの功労を見過ごしている気がする。
この曲の演奏の感想にこの言葉が出てくること自体が通常あり得なく、際立っているのだが、一言「静」なのだ。
第一楽章から第四楽章までの歩みは、まるでスリ足のように淡々と進む。慎重であり、なおかつ冷静。決して奇を衒わない。オーケストラの中で色々なことが起きているのに、チョン・ミョンフンは微動だにせずにひたすら一点を見つめている。居合の間を計っているかのようだ。
それゆえ、音楽が感興や情景に振り回されず、枠の中にピシャっとはまっている。勢い余って飛び出たり、溢れ出たりすることがない。
オーケストラの東京フィルもそうしたタクトによく応えていた。また新国立劇場合唱団も精密なアンサンブルは圧巻だった。