クラシック、オペラの粋を極める!

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2011/10/23 キーシンピアノリサイタル

2011年10月23日  エフゲニー・キーシンピアノリサイタル   サントリーホール
オール・リスト・プログラム
超絶技巧練習曲第9番回想、ピアノソナタロ短調、詩的で宗教的な調べより「葬送」、巡礼の年第1年「スイス」より「オーベルマンの谷」、巡礼の年第2年「ヴェネツィアナポリ」より「ゴンドラを漕ぐ女」、「カンツォーネ」、「タランテラ」
 
 
私にとってキーシンは、「聴きに行かずにはいられないピアニスト」である。昔はさておき、近年は来日リサイタルにはほぼ足を運んでいるので、彼の芸風はなんとなく理解しているつもりでいる。だから、今回聴きに行く前から、聴き終えた後の感想がどういうものになるか、このブログ記事に何を書くことになるのか、ある程度事前予測が出来ていた。
 
キーシンの魅力、キーシンの素晴らしさ、それは「音楽への完全没入」だ。
 
世の中にはピンからキリまでたくさんのピアニストが棲息しているが、「あ、こいつ自分の演奏に酔ってるなあ、ナルシストだなあ、カッコつけて弾いてんなあ」というのが少なくない。
だが、キーシンに関しては、そういう自己陶酔は微塵も感じられない。全神経を研ぎ澄ませ、ピアノに向かい、音楽と対峙する。100%の全力で鍵盤をたたく。極限的な集中力。ステージの近くにいると、時々唸り声が聞こえる。
 
聞いている我々はどうなるか。
緊張感を強いられ、手に汗握ることになる。視線は彼の鋼のタッチに釘付けになり、頭の中は彼が奏でる音で完全に満たされ、他の一切の事が考えられなくなる。
すると、やがて時間経過の感覚が失われる。わずか5分が長大に感じたり、30分があっという間に過ぎ去ったりする。時を超越した空間に引きずり込まれるのだ。あたかもブラックボックスに吸い込まれるかのように・・・。
 
アルゲリッチポリーニも凄いピアニストであることは大いに認めるが、こういう‘スリップ体験’をさせてくれる人は、キーシンしかいない。ゆえに私にとって「聴きに行かずにはいられないピアニスト」なのである。
 
・・・・だというのに、雑誌モーストリークラシック今月号特集の「世界のピアニストランキング」で、キーシンはベスト30にもランクインされていない。1位ホロヴィッツ、2位ミケランジェリ、3位リヒテルと続いて、以後もず~っと既に亡くなっている人が続き、ようやく15位で現役最高アルゲリッチが入ってくる。愛好家も評論家も、既に他界している昔の伝説の人がホント大好きだ。もはや録音でしか聞くことができないというのに・・・。
 
そういう缶詰好きの連中に対して、私は声を大にして言わせてもらうとしよう。
 
「我々にはキーシンがいる!」
 
聞かない手はないぜ。