リッカルド・ムーティが退任してから5年、空席となっていたミラノ・スカラ座音楽監督に、ダニエル・バレンボイム氏の就任が決まった。今年の12月からで5年契約とのこと。
唐突感は、ない。
実力的にも、申し分ない。
個人的にも、好きな指揮者の一人である。
これまでも来日公演で、あるいは現地公演で、何度も名演に巡り会い、感銘を受けている。
にもかかわらず、だ。
どうもすっきりしない。なんか釈然としない。
世界の歌劇場におけるスカラ座の位置は、いまさら私が言うまでもなく、ウィーンと並んで「世界最高」である。
ではなぜスカラ座は世界最高なのか?
それはスカラ座が、イタリアオペラの殿堂であり、総本山だからだ。イタリアオペラの最高峰であるがゆえに、世界最高なのだ。
蝶々夫人、トゥーランドットやオテロ、ファルスタッフなどの多くの名作がここで初演され、トスカニーニ、セラフィン、サバタ、アバド、ムーティらがつないできた栄光。燦然と輝く伝統。スカラ座はイタリアの国家的文化財産であり、死守すべきイタリア芸術の最後の砦である。
まず、トップである総裁にフランス人を招いた。演目を増やし、ドイツ物、フランス物、ロシア物など多彩なプログラムが並ぶようになった。指揮者も歌手も演出家も世界からキャスティングするようになった。
今回のバレンボイムの就任はこうした一連の流れをそのまま受けている。
私は危惧する。
それとも、単純に、イタリアの人材が不足し、底力が低下しているのであろうか。