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アルゲリッチ 私こそ、音楽!

WOWOWで放送されたドキュメントムービー「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」を視聴した。
マルタ・アルゲリッチは言うまでもなく世界最高のピアニストであり、天才的とも言える演奏技術や音楽性に関してはとっくに語り尽くされているが、一方で、プライベートの部分については知られていないことが多い。気分屋だとか魔性の女だとか言われ、浮き名を流し続けた挙句に父親が違う子が三人いるなど、まるで芸能人のゴシップのように扱われることもある。
かと思うと、音楽祭を主催したり、コンクールの審査員を務めたり、平和記念コンサートに出演してメッセージを発信したりするなど、音楽家として何が出来るかを考え、その役割を果たそうという強い責任感や使命も見える。
 
アルゲリッチとは何者なのか」
この映画はその一面を窺い知ることが出来るドキュメントだ。
 
監督が三女ステファニー・アルゲリッチ(スティーブン・コヴァセヴィッチとの間の子)であることから、ここで捉えられているのは「母」としてのアルゲリッチである。親子であるがゆえに気心を許し、普通だったら絶対に見られない素顔を見ることができるのは貴重である。
 
ただし、この映画でカメラを向けて捉えようとしているのは、実はそこではない。
カメラの先にある物、カメラを通じて探している物、それは「偉大な音楽家の子としての宿命を背負う自分」、「それぞれ父が異なる姉妹や実父との関係やつながり」である。
つまり、一見「アルゲリッチとは何者なのか」のようでありながら、実は「自分は何者なのか、あるいは自分達姉妹は何者なのか」を改めて見つめ直しているというのがポイントなのだ。
 
その謎や解決の糸口を見出すために、ステファニーは何度も母に対して問いを発する。それに対し、アルゲリッチの答えがほとんど要領を得ないのが興味深い。おそらくアルゲリッチ自身も分からないのだと思う。まるで、「人生に正解などないし、正解を探すために人生を振り返ることにも意味はない」とでも言わんばかりに。
 
ドラマの核ではないものの、このドキュメンタリーを通じて初めて知った事実もいくつかあった。
彼女がグルダに師事するためにウィーンに渡るのを手助けしたのが当時のアルゼンチン大統領ペロン(有名なエヴィータの夫)だったこと、彼女の名前が一躍世界に知れ渡ったショパン国際ピアノコンクールの優勝の時にはもう既に一児を設けていたこと、その長女リダの親権は裁判所によって取り上げられ、リダは養育院で育ったこと、などなど。
また、両親が共にピアニストであるステファニーが、子供の頃「ピアニストになりたい」と話した時、父親に言われた言葉が「やめておきなさい。母には絶対に勝てない。」だったというのも実に面白い。
 
演奏家としてではなく、人としてのアルゲリッチを見て、ますますこの人物に興味を持ち、同時に「また演奏を聴いてみたい」という思いが強くなった。
「そういや、今年も別府アルゲリッチ音楽祭の関係で、東京公演もあったよな」と気が付き、チケット情報を調べてみたら・・・。
絶句。もう既に売り切れ・・・。あっちゃー。