クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

ジョン・ヴィラーズ

 せっかくナクソス島のアリアドネを観たので、なにかこれにまつわるエピソードの記事を書こうと思った。かつて一世を風靡したグルベローヴァのツェルビネッタについてはまたの機会ということで、今日はジョン・ヴィラーズについて書く。
 
 ヴィラーズ、知っていますか?
 
アメリカ出身のテノール歌手。それなりに世界で活躍しているので、知っている人、名前を聞いたことがある人も多いだろう。日本では、ラトルが指揮したザルツブルクイースター音楽祭引っ越し公演でフィデリオを歌ったし、最近ではおととし新日本フィルマーラー8番をやった際にソリストとして来日した。
 
 そのヴィラーズとオペラ‘アリアドネ’がどうつながっているかというと -
 
 私はこのオペラが大好きなので(前回の記事に書いた)、このオペラを観るために海外にもちょくちょく足を運んでいるのである。その行く先々で、具体的に言うと、フィレンツェザルツブルク、パリ、モデナでの4つの舞台で、バッカス役でヴィラーズが出演していたのである。
数えたところ、私は海外でアリアドネを9回見ているのだが、そのうちの約半分のバッカスがヴィラーズということである。これはかなり高い確率と言っていいだろう。
また、2000年にウィーン国立歌劇場が来日し、演目の一つがアリアドネだったが、この時のバッカスも当初発表キャストはヴィラーズだった。来日後、主催者発表によると家族の不幸が起こって帰国してしまったとのことで、キャストが替わったのであるが、このウィーンも含めれば、要するに、一時期世界で「バッカスと言えばヴィラーズ」と言っていいほど彼が八面六臂の活躍をしていたわけだ。
 
 と、ここまでが前置き。
 
 2005年1月、イタリア・モデナにて。
 
 この時10日くらいかけて、イタリアオペラ紀行と題して、ヴェローナボローニャ、モデナ、パルマトリエステベネチアといった歌劇場を巡った。当然ヴェルディロッシーニベッリーニなどのイタリアオペラ三昧だったが、なぜかモデナでシュトラウスだった。まあ、ついでだし、好きなオペラだし、この際「何でわざわざイタリアに行ってシュトラウス?」という堅苦しい話は抜きにして、テアトロ・コムナーレ(現在はパヴァロッティ劇場)に出掛けた。
 
 公演の感想はとりあえず置いておく。御紹介したいのは、終演後、レストランでの話。
 
 ちょうど私が食事を終えて、食後のコーヒーを楽しんでいた時、そこにヴィラーズがやってきた。取り巻き連中と一緒で、なんと、私のテーブルのすぐ横に着席した。さすがアメリカ人、陽気で楽しそうに歓談していたので、最初は声をかけるつもりなどなかったのだが、やっぱりせっかくなので、「エクスキューズ・ミー?」とつい話しかけてしまった。
 
 まず最初にお世辞で「本日の公演を見ました。ヴィラーズさんのバッカス、素晴らしかったですよ。」と伝えた。ホントのことを言うと、素晴らしいというほどでもなく、「普通」だったのだが。
 
 そして、「実は私、ヴィラーズさんのバッカス、これで4回目なんです。フィレンツェでしょ、ザルツでしょ、パリでしょ、で、今日のモデナ。スゴいでしょ!!」と話した。
 さらに、よせばいいのに「ウィーン国立歌劇場in JAPANの時は残念でした。あ、それから昨年のフィデリオも見ましたよ!素晴らしかったですね!」
 
 それを聞いたヴィラーズ、最初のうちは「フフン」という顔をしていたのだが、突然立ち上がった。で、満面の笑みで私の手を取り、握手をしたと思ったらすかさずその手を引っ張って、私を抱きしめやがった(笑)。
 
 で、なんて言ったと思う??
 
 「You are CRAZY!!!」
 
 クレイジーとか言われてしまった・・・。
 
 まあ、マニアックに熱中することを、英語で「クレイジー」と言うことがあるので、実際私はオペラクレイジーなのだから、そう言われることはむしろ嬉しいくらいだった。
 
 問題なのは、おそらく、たぶん、間違いなく、絶対、ヴィラーズは話しかけてきた日本人が自分のファンであり、追っかけだと勘違いしたこと!(笑)
 
 ヴィラーズさん、やおらカバンから自分が出演する公演パンフレットチラシを取り出し、そこにすかさずサインを書き入れて、「ほら、どうぞ!」と私にくれた。
 私は頭をかきながら、「あ、ども、どもども。サンキューベリマッチ」とお礼を言った。
 
 私の方が先に食事を終えていたので、レストランを出る際に、もう一度「グッバイ!ミスター・ヴィラーズ」と挨拶したら、やっぱり立ち上がって「See you!」と言ってくれた。また会いましょうってか。
 
 
 ところで、どうなんだろう、ヴィラーズは今も相変わらずバッカスを歌っているのだろうか?最近はあまり見かけないような気がするが。
 
 えーと、もらったサインであるが・・・。
多分どこかにはある。捨ててないから。でもどこにあるかは、えーと、分からない・・・。