クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

ポリーニ

 私の「初!生ポリーニ」は、思いがけず転がり込んできた。
 1986年5月(ずいぶん昔だなあ)、新日本フィルの定期公演、サブメインプログラムのソリストとして。指揮者は小澤征爾。曲はシェーンベルクのピアノ協奏曲だった。(メインプロはマラ5)
 
 思いがけず、というのは、何を隠そうチケットが貰い物だったのである。もともと行くつもりはなく、たまたまアルバイト先の社長さんが「行く?」とプレゼントしてくれた。
 もともと行く気がなかったのは、その数日後にリサイタル公演のチケットを買っていたからというのもあるが、何よりも「シェーンベルクのような難解な音楽など聞きたくもなかったから」というのが主な理由。今でこそシェーンベルクの音楽は素晴らしいと理解できるが(と言いつつ、今でも理解出来ない曲もあったりして・・・)、当時は理解不能で毛嫌いしていた。そんなわけだから、タダでチケットを貰ったにもかかわらず、「どっしよっかなー」とためらったくらいである。
 
 だいたい自分でチケットを買わず、招待券とかタダ券とかの公演に行ったところで、大抵はろくなもんではない。一般的に、お金を払うだけの価値がある→チケットを買う→期待が高まる→集中して聞き耳を立てる→感動を得られる、という構図、逆に言えば、チケットを買わない→お金を払う価値を見出せない→期待が高まらない→気分が盛り上がらない→感動しない、となってしまうのだ。
 
 結局、「まあタダでポリーニ聞けるしぃ、小澤も聞けるしぃ、マラ5コンサートだと思えばいいしぃ・・」と言い聞かせて出かけたのであるが・・・・。
 
 これがですね、凄かったんでありマス!私のこれまでの生ポリーニのダントツNo1なのでありマス!行って良かったのでありマス!
 
 鬼の演奏だった。殺気立っていて、聴いていて怖かった。音が喉元に突きつけられたナイフのように迫ってきた。私は思わず「ううっ・・ご、ごめんなさ~い、勘弁してくださ~い」と心の中で謝ってしまった(笑)。
 
 ポリーニの演奏は、テクニックが完璧で、しかもタッチが硬質であることから、時に「冷徹」と評されることもあるが、実際にはロマンチシズムを湛え、作品への愛で温かい気持ちになることしばしである。
 だが、ことこの公演に関して言えば、鋼鉄の演奏で観客を完全に圧倒、ノックアウトさせていた。ちなみに、私はメインのマラ5の印象は全く記憶から抜け落ちている。
 
 ライブ体験ではないが、ポリーニの演奏で同じように鬼気迫って聴く者を圧倒する物がある。
 CD録音されている「ストラヴィンスキーペトルーシュカプロコフィエフソナタ7番、他」盤だ。ポリーニはCDをたくさん出しているが、私はこの盤が一番すごいと思う。とにかく狂気の沙汰。怖い!(笑)。これを聴いていただければ、私の上記の体験がどんなものか、うすうす分かってくれると思う。
 
 ポリーニとは、ステージ以外の場所で二度ほどご本人を目撃したことがある。場所は二度ともサントリーホールで、他のコンサートを聴きに来ていた。そのうち一度は、休憩中トイレに並んでいたら、自分のま後ろに御本人さんが並んでいて、気が付いて、ひっくり返るくらい驚いた。私が露骨に驚いた表情をしてしまったので、逆にポリーニさんを驚かせてしまったような気がする。すみません。
 ステージ上では巨人だが、実際はそれほど背も高くなく、ひょこっとした好々爺だ。そのギャップがまたいいんだな、これが。
 
 これは私の体験談ではなく、友人から聞いた友人のエピソード。 昨年のザルツブルク音楽祭にて。
 友人は、コンサート(だかオペラだか)を鑑賞した後、レストランで奥様とディナーを楽しんでおられた。それほど大きくないレストランだったようで、席は満席になった。
 
 そこへ、なんとポリーニ様がいらっしゃったそうだ。普通のお客さんとして。
 
 そしたら、あろうことか、ポリーニを知らなかった給仕係は、ポリーニ様に向かって「ただいま満席です」と入店を拒んだそうだ!!ありえん!!!
 何人かのお客さんがすぐにポリーニに気が付いた。友人も気が付いた。すぐさまみんなで席を開けて、「マエストロ、どうぞどうぞ!」と入れて差し上げたのだそうだ。
 
 面白いエピソードですね。
 それにしても、でポリーニを知らない店員なんて、モグリだよなあ。