ドイツのソプラノ、ヒルデガルド・ベーレンスさんが、8月18日ご逝去された。
草津国際アカデミーに参加するため来日していたところ、体調を崩されて都内で入院中であったという。
訃報に接し、私は言葉を失いました。悲しくて仕方がありません。
ベーレンスさんは私が最も尊敬し敬愛する音楽家の一人であり、オペラファンの私にとって最高のディーヴァ(女神)だった。
彼女に対してどれだけの思い入れが込められているのかについては、昨年にブログに書いた。どうか是非ご覧になっていただきたい。
ワーグナーやR・シュトウラスを愛するオペラファンなら、彼女がオペラの歴史に燦然と輝く一時代を築いたことについてご存じのことと思う。特に80年代において、ブリュンヒルデ、イゾルデ、エレクトラ、サロメなどの役では他の追従を許さず、間違いなく世界最高であったと断言する。
そんな偉大な芸術家が、なんと、この日本から天国に旅立つとは・・・。
彼女が草津国際アカデミーの講師兼リサイタル歌手として、今年で3年連続で日本に来ていることは、もちろん知っていた。
彼女の歌声を聴くために海外にも出掛け、それまでの来日のたびに必ずコンサート会場に足を運んでいた私だが、この草津アカデミーだけはどうしても行くことが出来なかった。一昨年も、昨年も行こうか迷い、悩みに悩んで結局行かなかった。
なぜか。
齢を重ね、音楽的にも身体的にも衰えた彼女を目の当たりにするのが怖かったのだ。万が一にもガッカリしたくなかったのだ。
私には彼女の最盛期の声と、神々しい舞台姿がしっかりと脳裏に焼き付いている。それで十分だった。
だが、今となっては思う。
彼女は日本を気に入り、草津を気に入ってくれて、こうやって毎年はるばるやってきてくれたのだ。心から敬愛する日本人のファンとして、来日を歓迎し、感謝の意を表するためにも草津に詣でるべきだったのかもしれない。
1997年9月、ウィーン国立歌劇場にて。
圧倒的なサロメの舞台を見終えた後、楽屋を訪れ、プロマイドをいただき、サインをいただいた。その際、私は「わざわざ日本から、あなたの音楽を聴くためだけにはるばるやってきました。」と伝えた。ベーレンスさんは、目をくりくりさせながら、「本当?ありがとう。」と答えてくれた。たったこれだけのやりとりだったが、私はこのひとときを一生忘れないだろう。
今、このブログを書きながら、CDで彼女の「ブリュンヒルデの自己犠牲」を聴いています。涙が落ちます。
ヒルデガルド・ベーレンスさんのご冥福を心よりお祈りします。
いつかそのうち、永眠の地を調べてお墓参りに行きたいと思います。