クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1995/5/24 ポンペイ

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 午後、ナポリ近郊にあるポンペイへ。ヴェズヴィオ周遊鉄道という私鉄で約1時間。

 イギリス以外のヨーロッパの国鉄は、たいていどこも改札が無くてホームの出入りは自由、車内で検札を受けるが、この鉄道は私鉄ということできちんと改札口があった。どことなく日本の電車っぽさがあり、面白さと懐かしさを感じた。

 道中、車内から迫力満点のごとくそびえ立つヴェズヴィオ火山を臨むことが出来る。ナポリ市内からは遠くそびえている感じだったが、間近に見る山は雄大だ。噴火活動が続いているとのことであったが、我々が行った時は特に煙は噴き出ていなかった。


 ご存じのとおり、ポンペイは遺跡の町である。
 はるか昔、高度な文明を有していたこの町は、紀元79年の大噴火によって一瞬にして灰下に埋もれた。一瞬であったが故に、当時の人々の生活がそのまんま閉じ込められ、封印された。遺跡は、あたかもタイムスリップしたかのような錯覚を憶えるほどの復元である。特に、ポンペイモザイクと呼ばれる赤い装飾壁画は、「よくぞまあ2千年間残った」と思うくらいの鮮やかさで、訪れる人の目を驚かせる。

 往時を偲びながら一つ一つの遺跡を訪ね歩いていたら、いつの間にかKくんが見あたらない。あれ?と思ってあたりを探したが、いない。どうやらはぐれてしまったようだ。
 まあいい。そのうちひょっこり遭遇するだろう。同じ遺跡公園内にいるわけだし。

 ところが。30分、1時間・・・彼が見つからない。さすがに心配になってきた。彼もきっと同様に心配しているに違いない。

 私は遺跡内で彼を探し出すことを断念し、ポンペイ駅で彼を待つことにした。最終的にナポリに戻るのだから、必ず駅に現れるだろうと見込んだわけだ。

 やがて、30分ほどで彼が駅に帰ってきた。ああ良かった、ホッとした。
 はぐれてしまったのはどちらが悪いわけでもない。そのことについては別に咎めない。
だが、「全然会わなかったね。どこか違うところに行ってた?」と尋ね、それに対するKくんの返事に私は二の句が継げなかった。

「いやあ、円形闘技場跡に行ったら、そこがまた素敵なところで、しばし佇んでいるうちに気持ちよくなって、昼寝してた。」

ぬあんだとぉ!?
また昼寝かよ?オヌシ午前中も考古学博物館の中庭で昼寝したんだろ?俺が心配しながら探していた間、寝てたわけ??心配しなかったわけ??っっっっったく、もう!!

(ホントKくんはいつもこんな感じだが、全く憎めないいいヤツで、もはや笑うしかない。しかしそれにしても(-_-;))


 遅くならないうちにナポリへ戻った。
 この日はナポリに泊まらず、夜行列車でジェノヴァに向かう。

 出発前、ナポリ駅からそれほど遠くない普通のレストランで夕食をとっていたら、店主らしきオヤジがおもむろに食堂内のテレビを付けた。なんとUEFAチャンピオンズリーグの決勝戦アヤックス対ACミランの試合だった。

 そうだった。この日だったのだ。
 旅行中に決勝が行われることは知っていた。だが、見ることが出来ないと諦め、そして忘れていた。
 別にこの試合をテレビ観戦したくて店に入ったわけではない。だが、偶然にも運良くテレビを見られるとなったら、話は全く別だ。私は食事を口にしながら(ここで食べたカルボナーラスパゲティは絶品だった)、完全に観戦モードに入り、食い入るようにテレビ画面を見つめた。

 こうなってしまうと、もうKくんはどうすることも出来ない。
 私が上記のようにKくんのことを「まったくもう!」と思ったように、この時は彼も私のことを「まったくもう!」と思ったことだろう。なにせ、夜行電車の出発の時間が迫ろうとしているのに、私はテレビの前を離れる気配を全く見せないのだから。

 試合は0対0の膠着状態が続いた。しびれを切らしたKくんが、「俺、先に行くから!」と席を立った。「あいよ。んじゃ、試合が終わったら走って行くから、待っててね。」

 すまぬKくん。
 君の気持ちはよく分かる。そして君の方が正しい。ここはイタリア。そしてナポリだ。鉄道の運行が日本のように確実とは限らない。何が起こるか分からない。十分なゆとりをもって駅に向かうべきなのだ。

 試合は依然として点が入らない。もし延長に入ってしまうと、さすがにこれ以上見続けることが出来ない。「頼む、90分で決着してくれいっ!」と願っていたら、祈りが通じたのか残り5分くらいでアヤックスの新星P・クライフェルト(のちにバルサの主軸FWとなる)がゴール!これが決勝点となり、アヤックスミランの3連覇を阻んだ。

 この時、店内で観戦していた客で、がっかりの溜め息に混じって、やった!とばかりに歓声を上げた人が何人かいた。同じイタリアだというのに、そのミランの敗戦を喜ぶ人がいた。もちろん彼らはアヤックスファンというわけではない。国内の憎きライバル、ミランが負けたことで「ざまーみろ」というわけなのだ。「なるほど、これが旧都市国家の代理戦争と言われるカルチョのファン気質なのだな!」と私はいたく感心した。

 こうしちゃおれん。店を飛び出して、真剣に走ってナポリ中央駅へ。待ちわびていたKくんと再会。夜行電車発車の10分前でした。