1980年代前半、バーンスタインが当時望み得る最強のキャストP・ホフマン、H・ベーレンスらと組み、ミュンヘン・ヘラクレスザールで演奏された「トリスタンとイゾルデ」コンサート形式公演のライブ収録は、その音源がCD化されると、直ちに評判を呼んだ。日本でもレコード・アカデミー賞大賞を受賞するなど絶賛された。今もなお名盤の誉れ高く、決定盤の一つとされる。
この時、実は映像も伴って収録されていたことは、知る人ぞ知る事実であった。
このドイツ国内で放映されたビデオソフトを、昔、見たことがある。
そのビデオ、目を覆いたくなるような惨憺たる画質の酷さ。
ドイツ国内でテレビ放送されたものを、個人が家庭用VHS録画機で録画し、それをダビングのダビングのそのまたダビングしたみたいな感じ。デジタル世代の人は分からないことかもしれないが、アナログ録画はダビングをするごとに劣化するし、経年によっても劣化するのだ。
とにかく、観るに耐えられない。私は最後まで視聴することなく、ていうか第一幕の途中で断念し、テープを友人に返却した。
残念だった。なぜなら、私はヒルデガルド・ベーレンスの歌唱のとりこになっていたからだ。
ベーレンスが出演したオペラの収録映像作品は今もいくつか残っているが、トリスタンとイゾルデは無い。せっかくの貴重な映像記録が、惨憺たる酷さだなんて・・。悲しかった。
なんということであろうか。隔世の感ここにあり。
改めて視聴してみると、これが本当に感動的だ。
これまでCDで何度も聴いてきたので、その音楽の素晴らしさは十分に知っているはずなのに、改めて凄いと思い知ったのは、やっぱり映像のおかげだと思う。迫力と臨場感が全然違うのだ。
こういう巨大なエネルギーに満ち溢れ、圧倒的な熱量に焦がされてしまいそうな指揮者、世界を見渡して、現在いるのだろうか。思い当たらない。不世出の指揮者なのだろう。
そういえば、今年、生誕100年の記念イヤーだったね。
そうか・・。
だからこの映像ソフトが今年出てきたということか。なるほどー。