カプリ島に行ったその日の夕方のお話。ナポリに戻った。
午後5時くらいだったが、日はすっかり延びていてまだまだ明るい。このため、ナポリ市内を見下ろす小高いヴォメロの丘にケーブルカーで登った。
ケーブルカーの車中で、イタリア語訛りの少ない、とても流ちょうに英語を話す男性が話しかけてきた。
「ナポリを訪れてくれてありがとうございます。歓迎します。このケーブルカーで登った展望台からの見晴らしはとても素晴らしいですよ。」
我々はてっきり地元の人だと信用し、車中の会話でささやかな交流ができたと喜んだ。
が・・・。
徐々に打ち解けるにつれて、我々は彼の話にどんどん巻き込まれていく。
彼は‘カメオ’(貝殻を彫って作る装飾品でイタリア産は有名)の製作技術者だという。「自分の店がすぐ近くにあるので、是非いらっしゃいませんか?」だって。
ほらほら、だんだん怪しくなってきたぞ(笑)。現地在住人のフリした呼び込み営業マンじゃねえか。やっぱりナポリは信用できないな。
ケーブルカーが頂上に着いた。やっとこのウザいナポリ人から解放される。
彼は、我々に展望台の場所を教えてくれつつも、「是非お店に来てください。」としつこく迫った。こっちは「ハイハイ」といい加減な返事をして、あばよとばかりに展望台に向かった。
高台からの眺望。
旧市街が見下ろせる。サンタルチア港の彼方には、西日を浴びた美しいヴェズヴィオ火山。その景色はまさに「ナポリを見てから死ね」にふさわしい。この景色を永遠に忘れまい、と目に必死に焼き付けた。
景色を30分くらい楽しんだだろうか。下山しようとケーブルカー乗り場に戻ったら、なんと・・・いるではないか。さっきの彼。我々を待っている。ニコニコしながら手を振ってやがる。てめー。
負けた。我々は彼のそのしつこさに負けた。参ったよ。わかったよ。
確かにカメオと言えば、イタリアの名産品であり日本でも有名だ。もしそれが‘本物’ならば、悪い話ではない。ただし、気を付けよう。ちょっとでもヤバければ店に入らないし、絶対に買うものか。
彼の言ったとおり、そこは工房兼直売店だった。普通の店で、他にも客がいた。値段も思ったほど高くなかった。
カメオは女性へのおみやげには最適だろう。私もKくんも、「まあいいか」とペンダントなどを購入した。満足そうに頷いて見送ってくれた彼。
名乗った名は今でもはっきり憶えている。忘れないぞ。
「ジョヴァンニ!まったくお前ってヤツは!」