クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1995年5月 イタリア 準備編1

 イタリア旅行というタイトルだが、元々の出発点は「F1モナコグランプリを観ましょう旅行」だった。
 Kくんは、私にF1の面白さを開眼させてくれた恩人である。
 それならば、彼との旅行はF1を絡めるのが良い。数あるグランプリの中で、最も優雅と言われているのがモナコGPなのだ。

 開催都市、‘コートダジュールの真珠’と言われるモナコ公国は、イタリアと国境を接している。ならばついでにイタリアの諸都市を回ってから入りたい。イタリアオペラの総本山、ミラノ・スカラ座を始めとする劇場を是非とも巡りたいし、かねてより観たいと思っていたサッカー・セリエAもある。

 このように、‘頭の中の’計画は着々と進行した。
一方で、‘実際の’計画はなかなか難しかった。

 14年前の話である。何でも調べられるインターネットはまだ普及前であった。

「F1のチケットはどうやって手に入れたらいいのか?」

 これが最大の問題であった。
ツアーでは行きたくない。「あれも見たいこれも見たい、あそこにも行きたい」というわがままを通すためには行動が限られるパックツアーでは無理だった。

 もっとも、根拠のない楽観も一方ではあった。
 ご存じの方もいると思うが、F1モナコGPは市内の普通の公道がサーキットになる。
そこに人が暮らしているのだ。市内の全てをシャットアウトすることなど無理だろうし、要するに「フラッと行って、道路脇やら街角などから適当にタダ見ができるんじゃないのか?」と思ったのだ。これ、実に真っ当で素朴な疑問である。

 そこで我々は、モナコGP観戦の情報を手に入れるため、都内のモナコ政府観光局を訪ねた。
 職員にさっそく上記の点について質問したところ、キッパリと言われた。「無理です!」
グランプリ期間中は完全シャットアウトが敢行され、関係者、居住者、チケットホルダー以外は市中心部への進入が不可となるそうだ。へえ~。

 で、次の質問。「チケットはどうやって入手するの?」
 この答えがまた唖然。
・郵送で申し込む。(チケットフォームと申込先は観光局でくれた)
・申し込みと同時にチケット代(現金)を送金する。(クレジットカード不可)
・取れればチケットが送られてくるが、取れなかった場合は返金される。
・人気GPなので、取れるかどうかは不明。取れなかったという情報もいくつか入っている。
・はっきり言って個人申し込みは手間も時間もかかるし、リスクがある。無難にツアーに参加した方がいいのでは?

 私は愕然とした。
「申し込んだが取れなかった」では済まされない。イタリア巡りも含め、渡欧は既に決めたことなのだ。で、肝心要のモナコGPが「ダメでした」ではシャレにならない。
 チケットが取れるか分からないのに最初からチケット代を送金しなければならないのもイヤだった。現金のフランスフランを用意しなければならないし、第一それをどうやって送るというのか?国際現金書留なんてあるのか?日本の郵便は信用できるが、海外は大丈夫なのか?もし送金途中に事故にあったら高額なチケット代はどうなるのか?

 暗澹たる気持ちで観光局を出ようとしたその時、一枚の紙が目に留まった。とある代理店による「モナコGPのチケットを手配します」というチラシ。
予選と決勝の二日で最高のカテゴリー席を用意、チケットの手配は「確実」とあった。値段は・・・なんと・・・14万円。じゅ・じゅうよんまんえ~ん!!!!

 定価だと最高席二日分で約6万円。普通の人間なら、まず「アホらしい」と一蹴するだろう。だが、私は考えた。マジに考えた。考えに考えたあげく、Kくんに語った。語ったというより、それは説得だった。

「Kくん。これは一生に一度のことだ。おそらくもう二度と無いことなのだ。これで最高のF1観戦が出来れば思い出は生涯残る。一方でチャンスを逃したら、それはそれで一生の後悔ものだ。生涯の記念と思えば決して高くない。人生の金字塔のため、ここは清水の舞台から飛び降りようではないか!!」

 いやあ、俺も無茶言ったものだ。「一生」とか「生涯」とか「人生」とか、今思い出しても笑ってしまう。くっく・・。

 だが、その時の私は大マジ、ちなみにもしKくんがパスしても、単独ででも申し込もうとさえ思っていた。

 Kくん熟考の後、判断を下す。「じゃ、そうするか・・・」
 社会人に入って二年目か三年目くらいのKくんにとって、14万円はそれだけで月給に近い数字だったはずだ。いや~、よく決断したねえ。さすが我が友、そうこなくちゃね(笑)

ちなみに、それ以後、事あるごとの飲み会の席で、以上のやりとりは、酒の肴ネタとして延々と語り継がれることになってしまったのであるが・・・。


 旅行前の準備ネタがもう一つある。スカラ座チケット問題だ。これについては次回にて。