クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1995/5/28 モナコ 2

ストライキ】特にイタリアとフランスの二カ国で、私はこれまで何度も何度も何度も何度も痛い目に遭ってきた。飛行機が飛ばない、鉄道が動かない、オフィスの窓口が閉じられる、楽しみにしていた公演が中止になる・・・。笑って済む軽度の物から、シャレにならない泣きたくなるような物まで。
初めてのストライキ遭遇はこの旅行。全てはここから始まった。

~ ~ ~ ~ ~

 旅行の最終日。
 旅のクライマックスを飾るのはF1モナコグランプリの決勝。セリエAも、カプリ島も、スカラ座も、みんな前座だったのだ。ついにメインイベントを迎えるのだ。

 決勝は午後3時半スタートだが、午前に出発。もちろん時間に余裕を持った行動というのが一つ。あとは単に決勝レースだけでなく、フリー走行(練習)も見たいし、もちろんモナコ市内を散策したっていい。早く行けば行くほどお楽しみは盛り沢山なのだ。

 事件は起きた。

 ジェノヴァ駅で電車の出発案内掲示板を見上げると、そこに予めしっかり確認しておいた我々が乗るべきフランス方面への電車の表示がなかった。戸惑う我々。駅構内に貼ってある時刻表には確かに運行が予定されている。もう一度案内掲示板を見上げる。何度目をこすって見ても、ない。

 すぐさまインフォメーションカウンターに出向き、質問した。係員はすぐにコンピュータを使って調べてくれた。そして答える。

ショーペロ

Kくんはこの単語の意味を知っていたようで、私の隣ですぐに体がピクンと反応したが、私は当時全く知らず、‘ぽっかーん’のまま。係員がすぐに英語で言い直した。「ストライキ!」

 この時の会話(英語)については今もはっきり覚えている。詳細に書き記そうと思う。

私「ストライキ??(絶句) ストライキってどういうことですか?」
係員「その電車は運行されません。キャンセルされました。」
私「あのう、モナコに行きたいのですが、どうしたらいいのですか?」
係員「残念ながら無理ですね。」
私「次の電車はないのですか?」
係員「分かりません。」
私「我々はどうしたらいいのですか?」
係員「分かりません。(両手を横に広げるポーズ)」
 「これは私のせいではありません。(It's not my fault-こういう時の連中の常套句) コンピュータでそういうことになっているので。」

 呆然と立ちつくす我々。状況を受け入れられない。

 モナコに行けない?嘘だ。絶対にウソだ。我々は何しに来たのだ?ここまで積み重ねてきた物は何だったんだ?ようやく辿り着いた最終目的は夢と散るのか?あり得ない!あり得ない!

「どうしよう??」困り顔の私に、Kくんは「とりあえずホテルに戻って、頭を冷やして考えましょう。」

 我々はホテルに戻った。部屋に入ってベッドにドカッと座り込む。お互いしばし沈黙。
 最初に口を開いたのはKくんだった。

「テレビ観戦しかないやね。」

私は即座に否定した。「嫌だ。絶対にイヤだ。」
「Kくん、今回のモナコGPのために我々いったいいくら払ったんだ?一生の思い出のために賭けたんじゃないのか?もしこれで帰国して『14万払ってはるばる行って、結局テレビ観戦しか叶いませんでした』なんて仲間に報告したら、我々は赤っ恥だ。笑い物もいいとこだ。そんなみっともないことには耐えられない。そして一生の後悔だ。そんなのはまっぴらごめんだ。」

「Kくん、こうなったらタクシーで行こう。お互いの所持金を全部合わせれば足りるだろう。タクシー代は、わからんが7万円くらいか?10万円くらいか?二人だから半額だ。手元にある所持金残額は、いざという時のために取っていた物。使うしかないだろ。」

 もうめっちゃくちゃ。私も完全にブッ壊れている。正気の沙汰ではない。

いつも私の進言に素直に(?)耳を傾けてくれるKくんも、さすがに押し黙ったままだ。当然だろうな。

 Kくんは言った。
「とにかく、駅にもう一度行って電車を確認してみよう。ひょっとするとさっきのは何かの間違いだったかもしれないし、別の担当者に聞けば良い方法が見つかるかもしれない。」

 これは冷静なKくんが導いた完璧な結論、そして神の啓示だった。

 我々は再度ジェノヴァ駅に向かった。再び見上げた出発案内掲示板。すると・・・。
 さっきはなかったが、あれから時間が経って、別のフランス方面の電車が表示されているではないか!!

 ただしモナコまでは行かない。その電車は国内線なので、終着駅はイタリアのヴェンティミリア。だが、ヴェンティミリアはフランスと接するイタリアの国境都市である。つまりモナコとは目と鼻の距離なのだ!とにかくヴェンティミリアまで行けば何とかなる!
 我々は慌ててホテルに戻り、再び荷物を持ってその電車に乗った。

 急行列車ではなかったし、ヴェンティミリアでも一時間くらいの乗り換え時間があって、非常に時間がかかり、我々は午前の全てをロスした。だけど、とにかく午後の決勝レースに間に合うことが出来た。

 ようやく気分が落ち着くと、今度はジェノヴァ駅の係員の対応にムカムカと腹が立ってきた。

 日本なら、こうだ。
「お客様の電車はキャンセルとなってしまい、ご迷惑をかけ本当に申し訳ございません。さて、お客様の場合、モナコに行くためには、次の○時○分発の電車に乗ってヴェンティミリアに行ってください。そこでフランス国鉄に乗り換えてください。そうすればモナコに行くことが出来ます。」

 これに対して、イタリア人係員のヤツ。
「I don't know.」
「I don't know.」
「It's not my fault.」
 ああ、今思い出してもムカついてきた(笑)。

 冒頭に書いたとおり、私にとってこれが最初のショーペロ遭遇。その後私は何度も痛い目に遭うことになる。


 レースのレポートは気分を変えてまた次回。
 そして、いよいよ感動の(?)最終回!