クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1995年5月 イタリア 準備編2

【ミラノスカラ座。イタリアオペラの殿堂。世界最高ゆえ、その敷居はとてつもなく高い・・】

スカラ座のチケット - 特にヴェルディなどのイタリア物の場合、定期会員だけでほとんどが埋まってしまい、一見さんが入る余地は限りなく少ない。だが、当時はそんなこととはつゆも知らない・・。】

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 もし、Kくんとの旅行が「F1だけ」だったら、私もそれほど気持ちが大きく沸き立つこともなかっただろう。
「せっかくだから、旅程にイタリアオペラを加えられないか」と思い立ち、真っ先に調べたミラノ・スカラ座のスケジュールで、ヴェルディの「椿姫」の公演があることを知った時、私は体が震えた。指揮はもちろん音楽監督にしてスカラ座の司祭者リッカルド・ムーティ

 この公演はプレミエではない。再演である。

 3年前のプレミエの評判は、海を越えて日本のファンの耳にも届いていた。
 椿姫と言えば、マリア・カラスのあまりにも超絶した舞台が伝説となってしまい、それ以後のスカラ座での上演を困難にしてしまった、といういわく付き作品。マエストロはこの壁に果敢にチャレンジし、障害を乗り越えるために若手を積極起用して、見事に功を奏したという。

 今でこそ「椿姫」は「またかよ」という作品になってしまったが、当時はまだまだそういう気持ちはなく、「初めてのスカラ座詣でを、ヴェルディの大本命の名曲で飾ることができる!!」という興奮で、天にも昇る気持ちだった。

 さて、こうしちゃいられん。さっそくチケットの手配だ。

 まずはモナコと同様に、情報収集のためイタリア政府観光局に出掛けた。
 スカラ座のチケットは公演ごとに発売日が決まっている。さっそく椿姫の発売日をチェック。ネット予約などはまだまだ存在せず、手紙、電話、ファックスにて受け付けるとのことだった。

 どの方法にするか。
 手紙だと発売日当日に届く保証は全くない。電話は言葉のやりとりの壁が厚い。最良の方法はファックスだと思った。

 発売当日。
 私は自宅にファックスがなかったので、ファックス機を所持している友人宅に乗り込み、発売時間を待った。
 発売開始時間である現地時刻午前9時、日本時間午後5時。ジャストにファックスを送信。数回程度つながらず、焦ったが、午後5時3分に見事送信が完了した。

 思わずガッツポーズ!
 発売開始後わずか3分で送信できたのである。チケット獲得は間違いない。うっひっひ~。

 一週間後。
 来た来た、来ましたよ。スカラ座からお手紙が。予約確認書が。うっひっひ~。
 喜び勇んで開封すると、びっしりとイタリア語で書かれていた。読めねえ~。

 だが、次のとおり書いてあることに一寸の疑いもなかった。

「拝啓 この度はチケットを申し込んでいただきありがとうございました。チケットについては以下の方法でお受け取りください。あれこれ。云々。それでは皆様のお越しを心よりお待ちしております。 敬具」 うっひっひ~。

 だが、果たしてどこでどうやってチケットを受け取ればいいのだろう?

 しようがない。英会話はそれほど得意ではないが、いっちょ国際電話して聞いてみるか。
 意を決してスカラ座へ電話。

私「こんにちは。英語でお話ししたいのですが、対応可能な担当者をお願いします。」
相手1「・・・。モメント(少々お待ちください)。・・・」(約3分待たされる)
相手2「ボンジョルノ。ウンタラカンタラ・・・」(イタリア語)
私「すみません、英語でお話ししたいのですが、対応可能な担当者をお願いします。」
相手2「・・・。モメント(少々お待ちください)。・・・」

再び約3分くらい待たされたと思ったら    「ブチッ。ツーツーツー・・・」

 てっっっめえ~。
 用件に到達せずに国際電話料金がかかっちまったじゃんかよ。

もうええわい。後日、トラベラーズチェックを購入するために都内のイタリア商業銀行日本支店に行くことになっている。そういうところに勤めている人はイタリア語は堪能だろう。そこで予約確認書を読んでもらおう。


 いよいよ旅行が数日後に迫った。
 上記の支店でイタリアリラのトラベラーズチェックを購入。
 続いて、ミラノから送られてきたお手紙を見せて、「すみませんが、何て書いてあるか、読んでもらえませんか?」と尋ねた。職員は快く引き受けてくれた。

 数分後、その職員が告げる。
「あの~。『売り切れ』って書いてありますけど・・・」  「は??」
「いやその、売れ切れって書いてあります。」  「・・・。」

 なにいぃぃぃ!?!?

 ありえない。だって、発売開始時刻からわずか3分で申し込んだんだよ。それで売り切れるのか??ウソだ。こいつはイタリア語が堪能ではないに違いない。

 どうしても信じられない(信じたくない)私はKくんを引き連れて書店に入り、辞書コーナーへ。伊日辞典を取り上げて即席翻訳にトライ。
私が持っている手紙に書いてある「Esaurito」エザウリート→売り切れ・・・。

 この時のショックと言ったら・・某大学の入学試験に落ちて以来の激震だった。(ちょっとオーバーか(笑))

 もう旅行は数日後に控えている。行程も決めてしまった。チケットはないが、とにかくミラノには行く!
 何とかなる! 何とかする!


 つづく。