クラシック、オペラの粋を極める!

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2024/3/20 スカラ座 ギヨーム・テル

2024年3月20日   ミラノ・スカラ座
ロッシーニ  ギヨーム・テル
指揮  ミケーレ・マリオッティ
演出  キアラ・ムーティ
ディミートリ・コルチャック(アルノール)、ミケーレ・ペルトゥージ(ギヨーム・テル)、エフゲニー・スタヴィンスキー(メルクタール)、サロメ・ジチア(マティルデ)、カテリーヌ・トロットマン(ジェミー)、ジェラルディーヌ・ショーヴェ(ヘドヴィーゲ)   他

 

本当は「一公演を観るだけのために、飛行機で高飛び込み」というのは、あまり好きじゃない。
好きじゃないけど、実際はしょっちゅうやってる。
今回も自分的に見逃せない公演なので、結局パリからミラノに飛んでしまった。
なかなかやらないロッシーニ畢生の傑作。
(とかいってたら、なんと新国立が来季にやるので、びっくり仰天)
天下のスカラ座のニュー・プロダクション。
私の推し、俊英マリオッティのタクト。
いわゆるプレミエ、チクルス初日。


マリオッティは、2013年にペーザロでこの作品を手掛けている。10年ぶりとはいえ、既に手中に収めている経験と自信は大きいだろう。将来のスカラ座音楽監督の有力候補のはずだし、ここで実績を積み上げ、アピールしておくのにはもってこいの演目だ。

そのマリオッティの音楽は、いつもと同様、キレ、冴えがあり、瑞々しく、そしてドラマチック。全体のコントールは行き届き、歌手への寄り添い加減も絶妙。席から指揮姿がよく見えたが、タクトはエネルギッシュで勇猛。作品、そして劇場を制圧した感じがした。
有名な序曲の演奏だけで、多くのブラヴォーが沸き起こったのだ。耳の肥えたミラノの聴衆も唸ったのではなかろうか。成功を収めたんじゃないかと思う。


個人的に注目していたのが、D・コルチャック。
2016年4月に新国立で上演されたマスネ「ウェルテル」のタイトル・ロールには、魅了された。
私の中のアルノール役は、F・D・フローレスとJ・オズボーンの二人で占められているが、今回、こうした既存イメージも鮮やかに打破してくれた。溌剌とした歌声と凛とした佇まいで、コルチャック独自のアルノールを構築していた。

タイトル・ロールのM・ペルトゥージは、そういえば先月、新国立劇場の「ドン・パスクワーレ」に出演で来日していたっけ。ベテランだが、まだまだ健在。歌唱、演技、いずれも熟練の技で、存在感を際立たせていた。

1か月前にキャスト変更が発表されて代替出演となったマティルデ役のS・ジチア。昨年5月にリエージュの王立ワロン劇場に出演していた彼女を聴いているのだが、その時は正直、印象が薄かった。
今回も、決して悪くはないし、むしろ代替としてよく健闘していたとは思うが、聴き手が彼女の歌唱に釘付けになったかといえば、それほどには至ってなかったと思う。


演出のキアラ・ムーティは、名前を見れば一目瞭然の、あの巨匠指揮者の御令嬢。
日本にも、2018年9月、ローマ歌劇場来日公演で、プッチーニの「マノン・レスコー」を演出したプロダクションが披露されている。
七光り、親の威光を笠に着る、みたいな揶揄は、きっと彼女の影に常につきまとっていると思うが、だからといって、それだけでスカラ座のニュー・プロダクションを任されるとは、とても思えない。おそらく彼女の演出家としての原点は、親譲りというより、女優として培った経験ではないか。いつまでも「ムーティの娘」と言われ続けたくないだろう。
ただし、オペラの演出にあたって、「音楽に忠実であれ」という大原則は、きっと偉大な父親からアドバイスされているに違いない。

舞台は、装置がかなり大掛かりで重厚。お金かかってるな、これ(笑)。
過激な現代演出ということはなく、セミ・モダン。
読替えは軽く行っていて、地域を征服し民衆を抑圧しているゲスレル軍団は、何だか秘密宗教の怪しい集団になっていた。ゲスレルはその司祭魔術師。
彼ら軍団がマシンガンなどの銃を装備して警戒しているのに、それに反逆し対抗するギヨーム・テルが弓矢って・・・それってどうなのよ?(笑)
ダビデゴリアテの戦い? インティファーダ

まあでも、全体としてスペクタクルであり、この作品の肝である人間の尊厳についてもきちんとおさえていて、良い演出だったと思う。


それにしても、午後6時半に開演し、終演は午後11時40分。5時間超!
全幕の間に休憩時間を挟むし、バレエもカットなく行うので、当然長くなる。いや参った。マジ疲れる。日本じゃあり得ねえ。
さすがに最終幕は睡魔に襲われてしまった。でも仕方がないよなー。
カーテンコールは残念ながらパスし、劇場をすたこら後にした。
本当はマリオッティやペルトゥージ、コルチャックなど、あるいはムーティ演出に対するスカラのお客さんからの反応を見届けたかったが、疲労で一刻も早く退散するしかなかった。