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2019/10/11 ギョーム・テル

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2019年10月11日  リヨン歌劇場
ロッシーニ   ギョーム・テル
指揮   ダニエレ・ルスティオーニ
演出   トビアス・クラッツァー
ニコラ・アライモ(ギョーム・テル)、ジョン・オズボーン(アルノール)、ジェーン・アーチバルト(マティルデ)、ジャン・タイトゲン(ゲスレル)、エンケレージャ・シュコザ(ヘドヴィゲ)、ジェニファー・クーシェ(ジェミー)、トミスラフ・ラヴォワ(メルクタール)   他


今年のバイロイトの「タンホイザー」ニュー・プロダクションで、目から鱗の演出で一躍名を轟かせたクラッツァー。期待したぜよ、今回のリヨン。こちらも新演出だしね。
だが・・。
結論を言おう。大したことなかった・・。

舞台の中央に更に一段の舞台が備わり、後方には美しいアルプスの写真の背景。
シンプルかつ洗練化されているのだが、なんだか予算の少ない中小劇場にいかにもありそうな質素装置。
その背景写真が、上からペンキのような液体の垂れ流しによって、徐々に真っ黒く染まっていく。要するに、権力者ゲスレルによる民衆への暴力的抑圧をそこで暗示させているわけだが、これまたいかにもという、ありがち手法。

おいおい、なんだよクラッツァー、この陳腐さ。
なにかい、リヨンのギャラ、渋かったのか??

個性的な特徴も、あったはあった。
全体を「暴力破壊軍団」Vs「バレエ団員やオーケストラ奏者、合唱団員といった芸術仲間たち」という構図に仕立てたということ。楽器をぶっ壊す奴らに対して、楽器を持って立ち上がる。芸術家たちの自由な創作活動が、今や危機に瀕している、とでも訴えたかったのだろうか。

それから、ギョーム・テルの息子ジェミー役に黙役の小さな男の子を起用したこと。そのすぐ脇に、かわいい弟を見守るお姉さんのような役を登場させ、その人に実際のジェミーの歌唱を担当させている。
このアイデアは、なかなか理に適っていて良かったと思う。テルの息子を演じるのが大人の女性歌手、という絵柄は、やっぱり演劇的じゃない。
だが、物語の一番のハイライト、テルが息子ジェミーの頭上のリンゴを射抜く場面で、その瞬間にこのお姉さんが弟の頭上のりんごを手で叩き、払い落としてしまう、というあまりにもずっこけな演出に、開いた口が塞がらない。ここ、一番盛り上がるところでしょ??

もう一度聞くけど、リヨンのギャラ、そんなに渋かったのか??

演出はこんな有様だったが、対照的に音楽は非常に充実していた。

何と言っても、首席指揮者ルスティオーニの溌溂としたタクトである。
ルックスと同様に、颯爽として切れ味があるので、音楽がとても躍動的で粒が立っている。長大な作品だが、決して緩慢にならず、作品の扱い、オーケストラへの向き合いはどこまでも優しくて丁寧。歌手への寄り添い加減も絶妙だ。
当然のごとく、カーテンコールでは彼に対して大きなブラヴォーが飛び交っていたが、なんだかその様は、聴衆がこれから我らの若きシェフを盛り上げていこう、育てていこう、みたいな雰囲気に感じられた。

リヨンはいい指揮者を選んだと思う。
同時に、ルスティオーニもまたいい劇場から選ばれたと思う。これからの彼のキャリア形成の上で、ここリヨンでの活躍は重要なものとなるだろう。

主役のテルを歌ったアライモ。「ギヨーム・テル」鑑賞は今回で3回目だが、なんと3回ともこのおじさんである。この作品が上演される機会は世界でも非常に少ないので、歌える歌手が必然的に限られてしまう、というのは分かるんだけどさ。
歌唱も演技も小慣れているのは当然のこと。乱れがなく、安心して聴ける。
だが如何せん、私が知っているとおりの歌唱。それはやっぱり新鮮さがなくて、面白くない。
新しいテルを紹介して欲しかったぜ、リヨン。
金を払う観客というのは、往々にして身勝手な要望を抱いてしまうのだ。

実を言うと、アルノール役のオズボーンも鑑賞3回のうちの2回目。CDやDVDが出ているロイヤル・オペラ・ハウス版も彼なので、アライモと同様の感想を抱いてもおかしくないのだが、なぜかこちらは「またかよ」感が全然沸かない。
オズボーンだって小慣れているはずなのに、その小慣れた感を微塵にも出さない歌唱と演技が上手いとしか言いようがない。劇場、演出、あるいは指揮者の要求によって、変化を打ち出すことが出来、新鮮さを失わないというのは、もしかしたら才能なのかもしれない。

この日の終演は、午後11時20分。前日のパリの「優雅なインド」も11時を過ぎた。
長ぇ~。そしてきつい~。まだ時差を引きずっているしなあ。

前回2年前のリヨンで「トリスタンとイゾルデ」を鑑賞し、やっぱり午後11時越えで、開いている適当なレストランを見つけられず、「軽く一杯」にありつくことが出来なかった私。
今回は学習した。
キッチン(オーブンレンジ付き、冷蔵庫付き)が備わあっているホテルを見つけ、「これだ!」と予約。予めスーパーで買い出しをし、部屋で軽食を取り、缶ビールをがぶ飲みした。安上がりだし(昼、奮発したし)、これはこれで「あり」。