2023年11月14日 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 サントリーホール
指揮 トゥガン・ソヒエフ
ラン・ラン(ピアノ)
サン・サーンス ピアノ協奏曲第2番
プロコフィエフ 交響曲第5番
コンセルトヘボウ管の公演を聴き終え、こうして今、ウィーン・フィル公演を迎える運びとなった。もう既にベルリン・フィルも日本に来ている。怒涛の外来オーケストラ公演ラッシュが、いよいよ火蓋を切った!
「ウェルザー・メストの代わりとしてソヒエフが振ることになった」という知らせを聞き、私は何だか嬉しかった。
それは別に「メストよりもソヒエフの方が良かった」という意味ではない。
ウィーン・フィルが、取ってつけたような付け焼き刃の代替ではなく、信頼の置ける、信頼に足る堅実な指揮者をピックアップしてくれた、その賢明な選択が嬉しかったのだ。しっかりと名よりも実を取ったのだ。
そしてこの決定は、『はたしてウィーン・フィルの演奏プログラムとして、メストが振る曲として、ちょっとどんなもんだろうか・・』と訝しがっていた本公演のプロコフィエフ作品が、にわかに脚光を浴び、名演への大いなる期待へと変貌した瞬間でもあった。
その前に、まずラン・ランのコンチェルト。
私は基本的に、外来オケ公演のコンチェルトが嫌いだ。外来オケ公演に足を運ぶ目的は、あくまでもオケを聴くため。そのオケがソリストの伴奏に回るなんて、高いチケット代からしてみれば「もったいない」としか言いようがない。
だが、そこはさすがラン・ラン、世界のトップアーティスト。
まず最初に、思わず唸ってしまった。「うんめ~!」。
そして次に、彼に対する見方、評価が少し変わった。
それは、作品やオーケストラを含めた全体の演奏に対する自己の献身性についてだ。
これまで、何だか鼻についていた「作品を足掛かりにして、自分を聴かせよう」というナルシシズムの形跡。これが今回、さほど目に付かなかったのである。
もちろんそこには、天下のウィーン・フィルに対して一目置く、出しゃばってはいけない、という謙譲の念も、少なからずあっただろう。
だが、一番は、成長成熟したんだと思う。わざわざ「オレがオレが」というふうにしなくても、演奏を最高にまで高めることが出来るという自信を深めたんだと思う。
私は彼の進化した演奏に、心からの拍手を送った。
メインのプロコ。
膨らんだ名演の期待に対するその結果は、ちょっと意外な展開へと向かっていく。
ウィーン・フィルの演奏は、さすがに上手い。そこは絶対に間違いがなく、まず前提にある。
そのうえで、ウィーン・フィルが醸し出す独特のサウンドの味わいは、そこに無かった。
かといって、「これぞ、ソヒエフが注ぎ込んだプロコの魂」かと言えば、全然そのように思えなかった。
私の感想は、「あらっ、そういう演奏なのね・・」という、微妙な戸惑いの入り混じりであった。
多くの観客はめちゃくちゃ盛り上がっているというのに・・。
もしかしてウィーン・フィルは、「唯一無二」から「世界的なオーケストラ」に変貌してしまったのだろうか?
(アンコールは、まあ、いつものアレだったが)
いや、その結論を出すのはまだ早い。たった1公演を聴いただけだ。
とりあえず、もう1公演ある。様子を見てみよう。