ベッリーニ ノルマ
指揮 ペーター・ヴァレントヴィッチ
演出 菅尾友
「え? グルベローヴァの日じゃないの?」などと言われそうである。
確かに、もし都合が付けば、そちらにしただろう。でも都合が悪かった。
だからと言って行かないということはない。別に出演者が誰であろうと、演目さえ気に入れば私はチケットを買う。公演を選ぶ基準の第一順位が私は「曲、作品」だからだ。
それに、よこすか芸術劇場はこれまで行ったことがない。その意味でも関心の対象だった。
会場に入って、思わず「おー」と声を上げた。本格的な欧州型馬蹄形劇場。写真で見て知ってはいたが・・。
日本ではこのタイプの劇場として、びわ湖、松本、そしてこの横須賀の三つが指折りだろう。東京でも大阪でも名古屋でもないというのがいいな。
せっかく素晴らしい劇場を建てたのだから、どんどんこういう劇場を利用してオペラをやればいいではないかと思うのだが・・・。現実は採算面で厳しいようだ。しかも、かなり。
この日も、客入りは非常に悪い。客であるこちらまでがっかりしてしまう。日本のオペラ芸術振興はいつまでも暗闇の中。主催者が「椿姫」「カルメン」「セヴィリアの理髪師」に逃げたくなる気持ちが分かるよ、やれやれ。
公演の話にしよう。
序曲、そして序盤と、少し硬い感じがしたが、主役たちのリードによって演奏はどんどんと熱を帯びていった。やっぱりベルカントオペラは、歌が命なのだな。
一方で、オーケストラと合唱は、プラハという音楽の都にある歌劇場なら、もっとレベルが高くてもいい。
(もっとも、ベッリーニ特有の平易なオーケストレーションでは、モチベーションが上がらないのも当然か。)
テオドッシュウは、ちょっと評価が難しい。「さすが」の歌唱と「あらら?」の歌唱が同居。さらには、セリフをド忘れしたり、入りを間違えたりという失態を犯して大減点。信じられない。彼女にとってノルマは十八番の持ち役なはずなのに。
今回一緒に行ったのは、クラシック音楽「自称初心者」。決して初心者ではないのに、マニアの私に引けを感じるのか、そう話す友人クンだ。
日ごろより「何か良い公演があったら、誘ってよ」と言うから、先日藤原歌劇団の「カプレーティ家とモンテッキ家」を誘った。「音楽が素晴らしい!」と感動したようだったので、「それならば」と本公演を誘ってみた。
その時、友人クン、「またベッリーニ? 好きだねえ!」と抜かしやがった。
私はちょっとムッとし、「あ、嫌なら、別に無理しなくてもいいよ。」と答えた。「また?」「好きだねえ!」なんて言う奴とは、一緒に行きたくない。ベッリーニの音楽をバカにしたみたいで、腹が立った。
でも、結局は一緒に行ってしまったわけさ。
そうしたら、友人クン、この日も「いやあ、音楽が素晴らしい!」なんてほざきやがった。
あんたさあ、俺に対して何か言う事はねえのかよ・・・。
・・・まあいい。許す。
ベッリーニの良さを再認識してくれたのなら、それでいいさ。
その代わり、二度と「また?」とか言うなって。ベッリーニの作品を続けて聴くチャンスなんて、そうないんだよ!