クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2023/10/27 スカラ座 ピーター・グライムズ

2023年10月27日   ミラノ・スカラ座
ブリテン  ピーター・グライムズ
指揮  シモーネ・ヤング
演出  ロバート・カーセン
ブランドン・ジョヴァノビッチ(ピーター・グライムズ)、ニコル・カー(エレン)、オラフール・シグルダルソン(バルストロード)、ナターシャ・ペトリンスキー(セドリー夫人)、ペーター・ローゼ(スワロー)、レイ・メルローズ(ネッド・キーン)、マーガレット・プラマー(アーンティ)   他


「せっかくイタリアに行くのなら、スカラ座で何かオペラをやっていないかな?」
計画策定時に調べてみると・・・ちゃーんとやってました。

ブリテン。英語(笑)。

世界的な歌劇場に相応しく、年間シーズンにおいてもドイツ物、フランス物など、バラエティ豊かな演目が並ぶスカラ座ブリテンも、そうした中の一つ。
スカラ座なら、やっぱイタリア・オペラでしょ!」みたいな風潮は、おそらく少なからずの日本人にとってあると思うが、少なくとも私自身は、そうした認識はもうすっかり取り払われている。(昔はあったが)


さて、今回の「ピーター・グライムズ」。指揮者、演出家、歌手、すべてにおいて国際級がしっかりと揃い、更には、劇場の威容さ、収容キャパシティや舞台面積といった規模の大きさなど、「さすがスカラ座」というのを、改めて感じ入った。
また、劇場にてお客さんを迎え、案内する担当係の表情からは、「天下のスカラ座の一員」というプライドが滲み出ているのが見え見え。(制服の一つとして身に付けている胸の上のペンダントが伝統の証で、彼らの誇りだ。)


本公演の上演を成功に導いた最大の功労者が、シモーネ・ヤング
いつもながらの流麗なタクトだが、音楽が前のめりでアグレッシブ。オーケストラを、あるいは歌手をグイグイと引っ張っている。
特に、作品のハイライトでもある管弦楽による間奏曲が圧巻。場面に応じて色彩感、寒村の寂寥感なども表出し、描写が的確で鮮やかだ。

カーテンコールにおける「ブラーヴァ!」の絶賛の掛け声は、「そんなに!?」と思うくらいすごかった。
してやったりのヤングさん、すっかり貫禄も付いて、何だかヒラリー・クリントンみたいに見えた(笑)。ちょっと似てる??


タイトル・ロールを歌ったジョヴァノヴィッチ。不器用で、職人気質で、本当は思うところがあるのに上手く言えず、もどかしさ余って荒々しくなってしまう・・・そんなピーターという役柄を非常に巧みに演じていた。演技がピカイチだった。

一方で、肝心の歌については・・・普通(笑)。

ジョヴァノヴィッチ、これまでに聴いてきて、歌唱について「さすが! すっげー!」と感心する時もあれば、「まあ、こんなもんか」みたいに感じる時もあり、どうも評価がイマイチ定まらない。
で、今回は、まあ普通。

エレンを歌ったニコル・カー。ジョヴァノヴィッチとは逆で、演技が表面的で、歌と上手く噛み合っていなかったのが残念。

エレン・フォードという役、人物は、複雑で厄介だ。
人を優しく包み込む美しい愛に溢れているように見えるが、実は高いところから同情を寄せている部分もあり、「彼を支えられるのは私だけ」という使命感や、「堕ちた人を更生させたい」という社会正義感、プライドも垣間見え、結局は「私だって幸せになりたい」と自分を見つめている部分もある。

エレンを歌う人は、こうした複雑な内的キャラクターを、演技と歌の両方で表現できるかが問われるのだ。だから、難しいんだよね。
ニコル・カーは、その意味において、薄っぺらかった。まだ経験値が少ないんだと思う。
(未来のスター候補生であることは間違いない)

バイロイトで活躍する遅咲きの(?)ベテラン、シグルダルソンは、貫禄があり、落ち着きがあり、声も立派でいぶし銀の存在感が光っていた。


演出について。
名演出家R・カーセンによる舞台ということで大いに期待したのだが、これまた「まあ普通」だった。

このオペラの核心とも言える閉塞化社会、群衆心理や村八分、孤立化といったテーマは、もちろん描いている。
だが、その描き方、掘り出し方は、いたって型通り、ありきたりだった。

ラストシーンで、ピーターは沖に出て自らの船を沈めるのではなく、再び裁判に出廷し、冒頭のシーンに戻って、「悲劇の運命は再び巡り、繰り返す」というオリジナルな見せ場を作ったのは、少し斬新だったが、かといって特段に衝撃的というほどのものでもなかった。


午後8時開演で、終演は11時15分。(休憩は2回あり)カーテンコールを最後まで見届け、コートを引き取って劇場を出ると、11時半。
遅い~!

ミラノは大都市、観光都市なので、夜遅くまで開いている店もあることはあるのだが・・・ゆっくりとした食事はもう出来ない。地下鉄の終電の時間も気になってくる。

ウィーンやドイツだと、終演が午後10時になるように、開演時間を調整し、セットしている。イタリアも、そうしてほしいよなー。

ていうか、イタリア人、終演後に食事を取り、お酒を飲みながら、感想を語り合ってゆっくり時間を過ごしたいと、どうして思わないのだろうか?? あんなにお話し好きなのに。

 

話は変わるが、本公演10月27日のミラノの天候はとても穏やかだったが、この後下り坂になり、30日から31日にかけて豪雨に見舞われ、11月1日に市内の一部箇所にて洪水や浸水が発生したとのこと。地下鉄など市内交通に大きな支障が出たのだという。
間一髪セーフ・・・。