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2023/10/11 鈴木優人プロデュース 「ジュリオ・チェーザレ」

2023年10月11日  鈴木優人プロデュース/BCJオペラシリーズ   東京オペラシティコンサートホール
ヘンデル  ジュリオ・チェーザレ
指揮  鈴木優人
演出  佐藤見晴
管弦楽  バッハ・コレギウム・ジャパン
ティム・ミード(ジュリオ・チェーザレ)、森麻季クレオパトラ)、マリアンネ・ベアーテ・キーランド(コルネリア)、加藤宏隆(クーリオ)、松井亜希(セスト)、アレクサンダー・チャンス(トロメーオ)、大西宇宙(アキッラ)、藤木大地(ニレーノ)

 

ジュリオ・チェーザレといえば、ちょうど一年前に上演された新国立劇場公演の記憶がまだ新しい。
このとき、主役のチェーザレを歌い演じたのが、マリアンネ・ベアーテ・キーランド。
つまり、今回のコルネリア役の人であった。
同じ作品の中で、二つの役をレパートリーに持っている。しかも同時に。
「最初は◯◯の役だったが、年月が経ち、声質も変わって、今は◯◯の役」というパターンは結構ありがちだが、同時にというのはなかなか興味深いところだ。

振り返ってみると、私がこれまでに鑑賞した「ジュリオ・チェーザレ」は、全てそのタイトル・ロールをメゾの女性が担当していた。
今回、初めて男性のカウンター・テノールで聴いた。これはこれで興味深い。
(本公演では、チェーザレ、トロメーオ、ニレーノの3役に3人のカウンター・テノールが登場ということになった。またまたこれも、興味深い。)

私が初めてカウンター・テノールの声と歌を実際に聴いたのは、結構昔、ヨッヘン・コワルスキーによる「こうもり」のオルロフスキーだった。倒錯の世界にびっくりし、微妙な違和感で背中がムズムズした(笑)。
今やすっかり聴き慣れ、耳馴染み、何の違和感もない。
ただし、「その役に対してカウンター・テノールを当てる」必然性、意味というのは、相変わらず今もよく分からないままだ。まあ調べてみれば、成り立ちや歴史も含めて解説されているかもしれないが・・・。

カウンター・テノールの必然性はともかく、ジュリオ・チェーザレ役を男性が担うことで、演劇的に将軍らしい凛々しさが出ていたのは吉。歌唱もバッチリ素晴らしかったティム・ミードの起用は、大成功だったとみた。

今回、歌手については、内外において人気と実力を兼ね備えた充実の配役だったと言えそうだ。M・B・キーランドしかり、日本人の方々しかり。

クレオパトラ役の森麻季さんについては・・・。
たくさんの拍手、ブラヴォーを貰っていたし、日本を代表するソプラノの一人であることは間違いないのだろう、きっと。お綺麗で、華があるし。
ただ・・・なんか・・私はその世間評価がイマイチしっくりこないのだ。
理由について、はっきりと断言はできないのだが・・。

なんつうか、声の軽さと役の重さのギャップ、とでも言おうか。漠然とだが。
まあ、これ以上は言わない。はっきりと断言できないので。


最初に歌手についてツラツラと書いてきたが、本公演の一番の立役者は、当然というか、鈴木優人さん指揮によるBCJの演奏で決まり。
300年の時空を超え、現代に蘇ったヘンデル。その音楽のなんと瑞々しいこと! ヘンデルは今も生きている!
作曲家が想定し、意図したであろう音楽が、当時の様式の調べに乗り、心に滲みる。これを再現させるための知見とアプローチは、さすが鈴木さん、古楽の専門家、第一人者ならでは。本当に感心した。


一方、演出については、残念ながら「ま、こんなもんか・・」みたいな感じ。
そりゃ、コンサートホールでの上演だ。色々と制約はあろう。音楽を重視し、音楽を第一に、できる範囲でのオペラの雰囲気を構築させられれば、それで十分という意見も分からないでもない。
でもね。
一見色々と制約がありそうなコンサートホールでも、出来るんだよ、やろうと思えば。

同じく鈴木優人プロデュース/BCJオペラシリーズだった2020年11月にヘンデルの「リナルド」を演出した砂川真緒さん。
今年の2月、東京芸術劇場シアター・オペラで「カヴァレリア・ルスティカーナ」と「道化師」を演出した上田久美子さん。
こうした人たちの制作によって、コンサートホールにおけるオペラ演出の可能性に限りがないことは、既に証明されているのだ。
少なくとも、脇役の登場人物のちょっとした演技や所作にコミカルな部分を含ませ、そこでクスクスと笑わせようみたいな狙いは要らない。それ、姑息なやり方。しょぼい。