クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2021/1/17 バッハ・コレギウム・ジャパン

2021年1月17日   バッハ・コレギウム・ジャパン   東京オペラシティコンサートホール
指揮  鈴木雅明
中江早希(ソプラノ)、清水華澄(アルト)、西村悟(テノール)、加來徹(バス)
メンデルスゾーン  オラトリオ「エリアス」


特大ホームラン、ぶっ飛び級の名演であった。
外来ではなく国内公演に限れば、これほどまでに傑出し、自身において満足感を得られた演奏というのは、近年においてほとんど記憶がない。まさに白眉。感動のあまり、打ち震えたほどである。

名演というのは、3つの重要な要件が揃わないと誕生しない。
まず、演奏の技術レベルが極めて高いこと。
次に、作品に、感動を引き起こすポテンシャルや魅力が十分に備わっていること。
そして、指揮者ら演奏家の卓越した解釈によって、そのポテンシャルや魅力が存分に引き出されること。

今回は、これら3つの要件が完璧に整った、第一級の公演ということだ。


まず、作品について。
「エリアス」、あるいは「エリア」、「エリヤ」とも呼ばれるこの作品、いったいどれくらいの人が知っていて、愛聴しているのだろう。
もちろん熱心なクラシックファンやマニアなら当然レパートリーに入っているかもしれないが、一般的にはあまり認知されていないのではなかろうか。オラトリオなら、ヘンデルの「メサイア」、ハイドンの「天地創造」などが有名だが、人気度ではこれらに比べて劣るだろう。

私は声を大にして言いたい。
「エリア」(※)は、とんでもない名曲だ。
メンデルスゾーン作品の最高傑作というだけでなく、個人的には「ミサ・ソレ」や「マタイ」と同列にして語ってもいいのではないかとさえ思っている。
(※メンデルスゾーンのオリジナルが「エリアス」なので、BCJもこの呼び名を採用したようだが、私自身はずっと「エリア」と呼んできた。)

私がこの作品に開眼したのは、1986年10月のN響定期1000回記念特別演奏会(サヴァリッシュ指揮)。それまでこの曲を知らなかったが、この公演を聴いて、「メンデルスゾーンは、こんなにもすごい曲を作っていたんだ!」と感嘆したのだ。

おそらく、バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏を聴いて、34年前の私とまったく同じ思いをした人はきっと多かったに違いない。
今は多くの人が自ら情報発信するツールを持っている時代。今回、「メンデルスゾーンのエリアス、初めて聴いたけど、この曲、めっちゃイイじゃないか!」というメッセージがたくさん発信されることを願いたい。


次に演奏について。
BCJの合奏、それからキャストが全員変更となった日本人ソロ歌手の歌唱、いずれも実力を存分に発揮した熱演だった。

だが、最も讃えられるべきは、やはり指揮者の鈴木さんであろう。
オーケストラに対してシンフォニックな響きを追求しながら、合唱とソロに対しては劇的な心情表現を植え付け、なおかつ全体として宗教的な敬虔さを纏わせている。
これらの絶妙なバランス配合が、力強い訴求力、推進力に転嫁され、聴き手に圧倒的な充足感をもたらしたのであった。

ベースとなっていたのは、いかにも鈴木さんとBCJのコンビらしいバロック的アプローチ。演奏の中に、バッハのマタイ、ヨハネの受難曲からの胎動と脈流が透けて見える。「バッハとメンデルスゾーンは、こうして繋がっているのだ」とはっきり認識させる説得力。
ロマン派に位置する作品の演奏でこれが出来るのは、日本において鈴木さんしかいない。
いや、もしかしたら、世界においても・・・。

この稀少な才能と実力が日本の中にあることを、我々はもっともっと誇るべきである。